2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月20日

 この社説は、今や世界の波になりつつある産業政策の原則として、①競争と開かれた貿易を促進する経済環境を作るものであるべきこと、②政策ツール(市場価格の保証、官民連携、税額控除)は具体的課題に適合すべきこと、③過去何十年にわたって成長のエンジンとなってきたグローバリゼーション等競争を排除してはならないことを挙げる。

 この三つの原則は、いずれも正当で重要なポイントである。とりわけ、自由市場と開放された貿易を無視してはならないとの指摘は、重要である。

 その観点に立つと、米国のIRAについては、税控除が永続的であるとか、保護主義的であるなど、批判的にならざるを得ない。例えばEVへの税優遇は、米国で組み立てられたもので、使用バッテリーが一定の条件を満たすもののみに適用されることになっている。

 欧州、日韓は米国に対し問題提起を行ってきたが、米国は基本的方針を変えていない。欧州に対し、米国は欧州も同様の補助金政策を採れば良いと取り合わなかった。今や欧州も英国も、同様の政策を検討中だ。

 日本は3月に米国と取決めを結び、「日本で採取又は加工された関連重要鉱物がインフレ削減法のEV税制優遇措置において、税額控除を受ける要件を満たす」ことになることを米国と了解した。

 バイデンの政策は、一定の海外EVが米国に入ることを阻止しようとしたものであることは明らかであり、米国内の識者からも、海外からの競争を阻止するものだと強く批判されている。他方、米国のイエレン財務長官が提唱して来たフレンズ・ショアリングの考え方(友好国間の自由貿易やサプライチェーン等の経済連携化)については、上記の社説は「悪意のある国との貿易に代わる選択肢となる」と述べ、それはひとつの方法として認めている。

トランプ政権時から続くWTO軽視

 ひとつ追加すべき点があるとすれば、世界貿易機関(WTO)等国際規範の配慮が重要なことである。トランプ政権以後、WTO軽視の風潮が拡大しているが、それには危機感を覚える。

 上記の社説も、「生産が最も効率的に行える場所からそれを引き離すことは、無駄でありコストを上げる。また報復を招く可能性もある」と指摘する。保護主義的手法でやれば、世界全体が結局不利益を被る。

 経済成熟国による幼稚産業論的な産業政策は弊害が多い。ここ数年WTO規範が順守されておらず、多くの国際規範上疑いがある政策が平然と取られている。

 一旦壊された秩序の再構築には莫大な時とエネルギーが必要となる。責任の多くは米国、特にトランプ政権と同政権の関税措置を継承しているバイデン政権にある。

 貿易について言えば、バイデン政権はトランプ政権と同じである。IRAの施策についても、その実施ぶりを注視していかねばならない。

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