地球環境への視点も
――また映画には、「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」の樋口真嗣監督も登場します。クジラ映画だけに、意外な印象ももちました。
八木 日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞するなど、超人気大作を手掛けている樋口さんは実は、東京・神田のクジラ料理屋「一乃谷」の常連なのです。「シン・ウルトラマン」の撮影で多忙を極めている合間を縫って、店に来てもらいました。
最初は、大将の料理を「美味しく食べていればいいよね」などと冗談ぽく言っていたのですが、反捕鯨国豪州の状況や馬肉に関するさまざまなエピソードを話してくれて、とてもありがたかったです。美味しそうにも食べてくださり、やはり映画の出来栄えに気を遣ってくれたのかもしれません。この映画のためにこれほどまでにもというくらい自己演出もしてくださり、とても感謝しています。
――すでに東京や大阪で映画上映が始まりました。観客からはどういう評価を得ていますか?
八木 私は上映後、毎回、観客からアンケートを受け取っているのですが、お言葉をいただくのが、「衰退してしまった捕鯨の状況について知らないことばかりでした」「縄文時代から日本人が大切にしてきた鯨食文化について何も知らず、恥ずかしい」という印象です。東京大学大学院農学生命科学研究科の八木信行教授のくだりについても多くの感想をいただきます。八木教授は東大卒業後、農林水産省に入り国際捕鯨委員会(IWC)や世界貿易機関(WTO)の交渉に従事し、生態系の保全や農林水産物のマーケティングなどを研究している日本の第一人者で、日本の捕鯨をめぐる事情にも詳しいエキスパートです。
八木教授は海と陸はつながっていて、陸の土地開発ばかりを進めれば、河川からその廃棄物であるリンが流れてしまい、海が酸素不足となり海の生態系を破壊しているという話をされています。また、海にはたくさんの食資源があるのに、商業主義に走りすぎて、サバとかイワシとか人気のある魚ばかりを捕ってしまい、生態系の多様性を失っているという指摘もしてくださいました。
海と陸とのつながりと環境保全の重要性について、具体例を出してなされた証言は、観客から「圧倒的に話が分かりやすい」「説得力がある」という評価をいただいています。
私も当初はクジラの話を描こうと思ったのですが、八木教授のインタビューなどを経て、壊れゆく地球環境の視点まで捉えるべきだと思うようになりました。限りない地球の食資源を維持していくために、どのようにしたらよいかについてもストーリー展開を変えました。生態系の維持は日本人だけでなく、世界の方々が共有した意識を持たなくてはならないというメッセージもこめました。