2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2023年10月6日

海外から見た日本の鯨食

――撮影や制作はどのような形で進んでいったのですか?

八木 コロナ禍で撮影を始めたとき、大将の谷さんは本当に今でも店を閉めようかというときでした。20年5月ごろだったと思います。そうした状況だったので、大将がクジラをさばくシーンを静かな環境で撮ることができました。

 そのあと、東日本大震災で壊滅的な被害を受けながらも、復興した宮城・鮎川の捕鯨基地の撮影に入りました。鮎川捕鯨と何回か連絡を取ったのちに、撮影を受け入れてくれたのです。ちょうど沿岸捕鯨のシーズンとなった21年夏のことです。東日本大震災の後、並々ならぬ苦労を抱えながらも地元の捕鯨の灯を絶やすまいとする意志も語ってもらいました。

鮎川でのクジラの解体

 調査捕鯨から商業捕鯨にかわったのに、現地ではちゃんと捕れたクジラの身体を測定したりして、クジラの生育状況を把握しているんだなと勉強にもなりました。

――コロナ禍を逆手にとって撮影が順調に進みましたが、ストーリー構成はどのように考えていったのですか? 1作目と同様、映画には世界の捕鯨の営みを続けたり、ルールを決めたりする主要人物が登場しますね。

八木 構成は、縄文時代から維持されてきた日本の鯨食文化の魅力と、日本の捕鯨が国際的な圧力の中で衰退していった状況をわかりやすく示す2本柱にしようと思いました。そして、海外の方にもクジラを食べることへの抵抗をなくし、理解してもらいたかったので、多くの外国人にも登場してもらおうと考えました。

 まず、日本の捕鯨への圧力が高まっていった1980年代の状況を知る、カナダ人のユージン・ラポワントさんにコンタクトを取りました。ラポワントさんは1982年から90年までワシントン条約(CITES)の事務局長を務め、クジラは賢く可愛い海のシンボルだからといって、日本の捕鯨が活動家から批判のやり玉にあがった状況を証言してもらいました。

 ラポンワントさんは日本の捕鯨には寛容で、愛護団体の圧力にあって解任させられた過去を持つ方です。2022年初頭から1週間ぐらいおきにZOOMで話し合い、当時の状況を語ってもらったのですが、映画では描き切れていない貴重な証言もたくさんありました。愛護団体の活動家はクジラだけでなく、アフリカのゾウをめぐる現状などにも感情論をふりかざし、野生動物の保護が振り回されていった状況を嘆いておられました。

 フランス人の科学者で現在は捕鯨国ノルウェーに住み、NAMMCO(北大西洋解散哺乳動物委員会=★クジラを含む海洋哺乳類の捕獲ルールを管理している団体)事務局長のジュヌビエーヴ・デスポーテスさんはもともとは反捕鯨の立場だったのですが、大学の論文を書くために、捕鯨基地のあるデンマーク・フェロー諸島に出向いたところ、現地の生活は地球環境に優しいサステイナブルであることを悟り、今はNAMMCOの主要人物になった方です。彼女は地球に負荷をかける畜産のネガティブな面や、クジラを最も殺害しているのは捕鯨ではなくて、漁師の引き網などにひっかかる混獲である、そうした矛盾点を指摘されていましたね。


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