日本が支援し急速な経済成長を遂げた諸国の中に中国も含まれるが、10年前頃から中国は欧州との間を繋ぐインフラ供与の「一帯一路」構想をその対外政策の表看板に掲げ、そのルート上の諸国に対し、中国が資金を貸し与えるので、それを受領すれば中国と同様に経済成長を享受できる、と魅了してきた。
東南アジアでも、昆明からシンガポールに至る高速鉄道計画を示し、クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画がマレーシアとシンガポール政府によって発表された折には、高速鉄道分野の草分けである日本の新幹線に対抗する勢いで、「一帯一路」構想を激しくぶつけてきた。
上記の記事も言うように、その構想は各国の政治指導者を「不透明な」政治判断に誘い込み(マレーシアのナジブ政権時代には賄賂が横行した)、その結果としてそれら諸国は経済合理性から外れた借金を負うことになった。「債務の罠」にはまった途上国に対し、中国は「借金の形」に「一帯一路」のルート上に港湾などの利用権の提供を求め、中国への外交的傾斜を誘導してきた。世界はこうした事態を安全保障の懸念と感じるまでになった。
なぜ、日本が参画しないのか
過去数年、中国はブラジル、ロシア、インド、南アフリカとの新興5カ国(BRICS)や上海協力機構などを通じ、中央アジア、中東、アフリカ、中南米への更なる影響力を急速に拡大しつつあるが、この動きに対し、米国や欧州諸国が具体的対策を講じるのはやや遅きに失した感がある。しかし、手遅れというわけではないのだろう。例えば最近、イタリアのメローニ首相が一帯一路からの脱退の意向を明らかにしたと報じられている。
米当局者によれば、G20の脇で合意された上記の構想は、中東諸国を鉄道で結び、港でインドと接続させることで輸送時間や燃料の使用量を削減し、湾岸諸国から欧州へのエネルギー・貿易の流れを後押しすることが狙いだという。
署名された覚書によれば、この構想はインドとアラビア湾を結ぶ東側回廊と、アラビア湾と欧州を結ぶ北側回廊の2回廊で構成される。鉄道ルートに沿って、参加国は電力・データ回線用のケーブルや、発電に使用する再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する予定だという。
残念なのは日本が参加していないことである。中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗すべく、米欧諸国が協力して実施しようとする世界的なインフラ整備プロジェクトに対し、質の高いインフラ整備を訴える外交努力を続けてきたわが国は、この米欧主導のプロジェクトに参画すべきだったのではないだろうか。