9月9日付のFT紙の解説記事‘US and EU back new India-Middle East transport corridor’が、主要20カ国・地域(G20)首脳会議の脇で米欧首脳が、インドから中東を経て欧州に至る海陸の交通路の建設を支援することに合意したと報じ、貧困諸国を債務の罠に陥れる不透明な中国の「一帯一路」より、遥かに評価が高いとしている。要旨は次の通り。
米国と欧州連合(EU)は、中東から地中海に至る地域における中国の経済的影響力に対抗するため、インド・中東・地中海を結ぶ新たな海陸交通回廊の開発を支援することに合意した。この計画は、9月9日にニューデリーで開催されたG20首脳会議の議場外で、バイデン、モディ、ムハンマド・ビン・サルマンを含む諸首脳が合意した覚書に基づき開始される。
提案されている回廊は、新しい海底ケーブルやエネルギー輸送のためのインフラも含むプロジェクトで、インドからアラビア海を経てアラブ首長国連邦(UAE)まで伸び、その後サウジ、ヨルダン、イスラエルを横断してヨーロッパに至るものである。 義務的な財政支出の約束は未だないが、参加諸国は今後60日間の間に「行動計画」を策定することに合意した。
欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、「プロジェクトはインド、アラビア湾、ヨーロッパを結ぶこれまでで最も直接的な連絡路となるだろう。これは複数の大陸と複数の文明世界を結ぶグリーンでデジタルな橋だ」と述べた。
米国にとって、このプロジェクトは、UAEやサウジアラビアを含むアラブ地域に存在する米国と伝統的に協力関係にある諸国が中国、インドその他のアジアの大国と関係を深めている中、この地域における中国の影響力扶植への対抗策となるであろう。
EU当局者らは、この協力は、特にロシアの対ウクライナ戦争に対抗すべく、EUが湾岸諸国との貿易投資関係を深めようとする取り組みの中核である、としている。
EUは、中国の一帯一路構想に対抗し、主要な貿易相手国における欧州の権益を守るために始めた「グローバル・ゲートウェイ・プロジェクト」を通じ、2021年から27年までの間に海外インフラへの投資のために最大3000億ユーロを準備している。
このプロジェクトは、貧しい国々を債務の罠に誘い込み不透明であると酷評されている中国版の「一帯一路」構想が資金供与するインフラプロジェクトとは対照的だ。ファイナー米国家安全保障副補佐官は、「このプロジェクトは、水準が高く、強圧的でなく、何処かの国に何かを強いるものではないため、関係国からだけでなく世界中から高い評価を得ている」と語った。
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インフラ建設は、経済支援、武器供与などの「実弾」の供与を通じた外交の中でも経済的インパクトが大きく、かつてわが国は今より積極的にアジアをはじめ多くの途上諸国にそうした支援を提供し、受益国の経済成長を促し、それを重要な外交手段の一つとしてきた。