2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年9月27日

 思い返せば、1988年、中国が初めて南沙群島に進出した年、当時のチャチャイ首相は、中国の進出を牽制するために、日タイの共同海軍演習を南シナ海で行うことを提案してきました。また、当時、日本に赴任するタイの大使は、赴任に際して、「“お前の在任中の最大の任務は、日タイ合同演習を実現することだ”と言われた」と、語っていました。しかし、集団的自衛権も行使できない当時の日本では、それは実現し得べきもなく、彼は任務に挫折したまま、任期を終えました。

 そして、東南アジアの安全に日本を捲きこむことに失敗したタイは、日本は恃み難しと見切りをつけて、その伝統的に柔軟な外交戦略により、現在のタクシン派のUDDに到るまで、一貫して対中傾斜の政策を取ってきています。

 そこに安倍内閣が出現して、日本が初めて安全保障面でも東南アジアと協力する姿勢を示しています。この情勢の変化に戸惑い、この変化に抵抗しようとしているのがこの論説であると言えます。

 東南アジアは、地政学的にも、共産主義を受け入れない価値観からも、また従来の日本との深い経済的結び付きからも、日本と協力して中国の進出に対抗する方が自然な地域ですが、従来の日本の安全保障面における消極的な姿勢のために、中国の意向になびいてきた感がありました。

 安倍政権の新しい外交姿勢は、まだ始まったばかりですが、この形勢を徐々に変える可能性を秘めています。しかし、過去20年、あるいはそれ以上の、日本不在の安全保障環境を変えるのには、種々の抵抗が予想されることは、この論説を見ても明らかです。

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