2024年6月18日(火)

WEDGE REPORT

2023年10月20日

ハマスはいかに周到な準備をしたのか

 イランが今回の事件においてハマスに攻撃の指示を出したか否かはわからない。しかし、ガザ地区はイスラエルによって物資の出入りが厳しく制限されている場所であることから、ハマスがエジプトとの地下トンネルを通じてイランから軍事資源を調達したり、人道支援物資を装って検問をかいくぐって弾薬を持ち込んだり、あるいは何らかの方法で武器の製造方法を教わり、ハマスの戦闘員らが市販製品や回収した鉄片から手作りした可能性がある。

 実際、パレスチナ武装勢力側が広報動画で、イランから軍事・財政支援を受けたと認めたことや、ミサイル弾を貯蔵する地下トンネルを公開したことは過去にある。

 10月16日付「タスニーム通信」(革命防衛隊系)は、ハマスが4年前から演習を行うなど今回の攻撃を周到に準備していたと報じている。準備期間を約2年とする憶測もあり、4年という数字が正しいか否かについては議論が分かれるところだが、充分な兵器(ロケットや小型小銃・弾薬等)を準備し、これだけ統制の取れた軍事作戦を実行するには、何者かから立案に関する助言と軍事資源の供与があったと考えるのは自然なことであろう。また、果たしてイスラエル側に内通や情報漏洩を含む過失がなかったかも今後の焦点となる。

 もっとも、繰り返しになるがイランの関与があったのか、あったとすればその程度はどれ程だったのかは曖昧である。過去にも、イエメンのフーシー派によるサウジアラムコ社の石油施設に対する攻撃(19年)、ロシアに対するイランのドローン供与疑惑(22年~)が取り沙汰されたが、結局証拠は見つからず懲罰は見送られてきた。つまり、公式に否定したとはいえ、イランが責任の所在を曖昧にする戦略を取っている可能性は残る。

戦線拡大の可能性は

 今後の懸念は、現在はイスラエル・ハマス間に限定されている戦闘が、イランや近隣諸国、ひいては域外国をも巻き込んで拡大することである。既に、レバノンのヒズボラは同国南部から、イスラエル北部に対する牽制や陽動を狙った軍事行動を起こしている。イランから発せられる累次の警告を踏まえると、このままイスラエルがガザ地区への地上軍派遣に踏み切った場合、イランから報復がなされる可能性がある。

 イランが具体的に何を講じるかは明らかでないが、アブドゥルラヒヤーン外相が「抵抗の枢軸」に言及していることから見て、イランがヒズボラ等の「抵抗の枢軸」を成す非国家主体と連動してイスラエル軍に攻勢を仕掛ける可能性が考えられる。その場合、イスラエル軍による反撃、並びに、米軍の介入も想定されることから、戦線が一挙に拡大することが危惧される。

 なお、米国は参戦することに対して消極的なようにも見えるため、介入に踏み切るか否かは、同国内政や兵隊の士気等を総合的に鑑みて決定されるだろう。

 イラン体制指導部にしてみると、今回の戦闘が勃発したことでイスラエル・サウジアラビア国交正常化交渉が頓挫し、結果的に利を得た状況である。昨秋以来のヒジャブ抗議デモを受けて体制批判の声が増えていた中、イスラエルという外患を抱えたことで、むしろ国内の結束も高まっている。

 イランへの直接被害が及ばない範囲での(代理勢力ネットワークを通じた)戦闘の長期化は、イスラエルの国力を消耗させる点に限れば、イランにとって悪くはないシナリオともいえる。

 とはいえ、レバノン等周辺諸国への戦線拡大は、イスラエルによるイラン本土への直接攻撃を誘発するかもしれず、イランにとって不利な状況を生むリスクもある。レバノン、エジプト、ヨルダン等近隣諸国の治安悪化も懸念事項だ。今後の情勢を過度に楽観視することは控え、予防策を早めに講じることが重要である。

「特集:中東動乱 イスラエル・ハマス衝突」の記事はこちら

   
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