2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月24日

 まして、欧州は、ロシアの侵略と米国の孤立主義にさらされている時である。戦争は悲惨な状況を生み出しているが、EUがより大きく、よりよい存在になるための推進力をも生み出している。欧州はそれを実現する道を探さなければならない。

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 欧州統合のプロセスにおいて「加盟国の拡大」は、「権限の拡張」、「制度の深化」とともに統合を進める推進力の一つであったが、少し前まではこの問題がEU内において真剣に討議される状況ではなかった。

 「EUは四つの危機に直面してきた」とよく言われた。2010年に本格化したユーロ危機、14年以降のロシアのクリミア半島及びウクライナ東部への侵攻、15年以降の移民・テロ危機、16年以降の英国のEU離脱問題の四つである。

 その後、さらに、新型コロナ・ウイルス問題への対処、ハンガリーとポーランドの「法の支配」からの逸脱の問題の深刻化が加わり、新規加盟国の問題について取り組むような状況にはなかった。

 しかし、ロシア・ウクライナ戦争がこれを大きく変えた。EU加盟国の多くが、ウクライナに対して連帯感を示すため、また、ロシアの脅威を受けての欧州のあるべき姿を考え、ウクライナのEU加盟申請について前向きな姿勢を取った。

 しかし、EUへの新規加盟については既に列に並んでいる国がいる。それらの国々と並行してウクライナの加盟について検討を進めていこうとの力学が働いているのが今日の状況である。列に並んでいる国を宙ぶらりんな状況のままにしておくことは、好ましくない方向に向かわせかねないとの考慮も働いている。

新規加盟へ並ぶ国の特徴

 EUへの新規加盟の列に並んでいる国は、いくつかのカテゴリーに分けられる。第一は、「加盟候補国」とされ、加盟交渉がすでに開始されている国である(アルバニア、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)。第二は、加盟交渉開始にまでは至っていないものの「加盟候補国」と認定された国である(ウクライナ、モルドヴァ、ボスニア・ヘルツェゴビナ)。第三は、それよりも更に時間とプロセスを要する「潜在的な加盟候補国」である(ジョージアとコソボ)。第四は、かねてから「加盟候補国」とされながらも動きのないトルコであるが、ここでいう9カ国には含まれない。

 上記の社説では、9カ国をまとめて取り扱っているが、実際には、物事が早く進む国とそうでない国に分かれていくだろう。EUへの新規加盟に際しては、1993年にとりまとめられた「コペンハーゲン基準」に沿って、EUとしての政治的基準、経済的基準、法的基準に合致しているかを各分野について精査するプロセスが進められるが、特に、「アキ・コミュノテール」と呼ばれるEUにおける法の総体系への整合性を確保するのは大作業である。

 EU拡大は、中長期的な視点からウクライナの安全保障をどのように確保するかの問題ともリンクしている。ウクライナのNATO加盟は一つのオプションであるが、それが難しい際のセカンド・ベストとしてウクライナのEU加盟を同国の安全保障措置の一環として位置づけるとの考えがある。

 しかし、EU加盟はNATO第5条のような集団防衛の仕組みを提供するものではない。EUが用意しているのは、加盟国の一つに攻撃が加えられた際には他の加盟国はできる限りの援助を行うとの努力義務に止まるものである。

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