「産学連携」という美名の陰で……
04年に国立大学が法人化されて以降、各大学はいっそう「自ら稼ぐ力」を求められるようになった。その意味で、共同講座や共同研究など、民間企業の資金を得て連携することは大学側にとって悪い話ではないだろう。他方、イノベーションが渇望される中、資金を投じて学術的な知見やリソースを得ることは企業側にもメリットが大きい。
経済産業省大学連携推進室の米山侑志室長補佐は「日本の産学連携は300万円以下のケースが約8割で少額であることが多い。1件あたりの金額をもっと大きくしていきたい」と意気込む。また、文部科学省産業連携推進室の鈴木慎司室長補佐も「大学など学術界における研究成果を社会に広く還元する意味においては、大きなデメリットはないのではないか」と意義を強調した。事実、政府は16年の「日本再興戦略」で大学などへの民間投資を3倍にする目標を掲げている。
日本経済が低迷して久しいが、日本が再び世界と伍していくためにも産学連携はますます重要になる。そうした中で、各大学はどのような視点を持つべきなのか。文科省や経産省などで審議会の委員を務める渡部俊也・東京大学副学長兼産学協創推進本部本部長はこう話す。「『公正さ』『誠実さ』と訳されるインテグリティーが求められる。つまり、大学側が、社会から何を期待されているのかを認識した上で、それに則った運営をしていくことだ」。
また、文科省科学技術・学術審議会大学研究力強化委員会の主査を務める東京農工大学の千葉一裕学長も「大学や大学院で社会を動かしていく人間としての基礎力を養うためには、学術界の研究者による教育だけではなく、ビジネス的な視点や発想に触れながら学ぶことも重要だ。実社会からどのような方を受け入れるか、どのようなスキルが必要で、それをどう学生に身に付けさせるかなど、大学として本質的な覚悟が問われている」と語る。
関連した別の問題もある。ある私立大学の教授は「基本的には有期雇用だが『特任教授』に対する、世間の認識と大学側の認識に乖離がある」と訴える。確かに国民からすれば、特任教授は「何か特別に任じられた教授であり、『教授』よりも権威がある」と受け止められてもおかしくないだろう。仮に大学側が学術的な実績の乏しい人物を「特任教授」として登用したとすれば、有名無実な教授が誕生しかねない。
小誌記者は、講座の資金面や特任教授への登用基準などについて京都大学大学院経済学研究科に取材を申し込んだが「ご依頼を頂きました取材はお受けできません」との返答だった。
大学は研究機関であり、教育機関でもある。産学連携には企業からの資金が投じられることもあり、その関係性には世間からの誤解を招かないような「公正さ」や「誠実さ」が求められるのではないだろうか。