金融不安が拡大している中で、中国の商業銀行は保身のためにリスクの高い不動産関係融資から手を引こうとしているのだが、そこから起きてくる一連の連鎖反応は実に恐ろしいものだ。
住宅ローンが停止されると、当然不動産物件の買い手が急減して不動産が売れなくなる。不動産が売れなくなると、いずれ不動産価格の暴落が起きるだろう。暴落すれば銀行の不良債権はさらに膨らみ、金融不安の危険性はよりいっそう高まる。そうすると銀行はさらなる保身策に走り、益々お金を貸さなくなる。その結果、不動産市場はさらに冷え込み、企業活動も萎縮してしまう。中国経済はこれで、果てしない転落の道を辿っていくのである。
「民衆の口を塞いではいけない」
経済の話はこれくらいにして、最後に一つ、政治面での注目すべき動きを紹介しよう。9月2日、中国共産党直属の中央党校の発行する機関紙の『学習時報』は、ある衝撃的な内容の論評を掲載した。
論評を書いたのは中央党校の宋恵昌教授である。中国周王朝きっての暴君の厲王が民衆の不満の声を力ずくで封じ込めた結果、自分自身が追放される憂き目にあったという故事を引用しながら、「民衆の口を塞いではいけない」と説いた内容だが、昨今の中国の政治事情を知る者なら、この論評の意図するところは即時に理解できたはずだ。
まさに今、習近平党総書記の率いる党指導部は、ネット世論を中心とする「民衆の声」を封じ込めようと躍起になっている。今月4日、国営新華通信社の李従軍社長が人民日報に寄稿して「旗幟鮮明に世論闘争を行う」と宣言した一方、軍機関誌の解放軍報も同じ日に「ネット世論闘争の主導権を握ろう」との論評を掲載した。党と軍を代弁する両紙が口を揃えて「闘争」という殺気の漲る言葉を使って、ネット世論への宣戦布告を行っている。
こうして見ると、上述の学習時報論評は明らかに、党指導部の展開する世論封じ込めに対する痛烈な批判であることがよく分かる。論評はその文中、「いかなる時代においても、権力を手に入れれば民衆の口を塞げると思うのは大間違いだ。それが一時的に成功できたとしても、最終的には民衆によって権力の座から引きずり下ろされることとなる」と淡々と語っているが、誰の目から見てもそれは、現在一番の権力者である習近平総書記その人に対する大胆不敵な警告なのである。
当の習総書記がこの論評に目を通せば、ショックの大きさで足元が揺れるような思いであろう。本来なら、自分の親衛隊であるはずの中央党校の教師に、面に指をさされるような形で批判されるようでは、党の最高指導者の面子と権威は無きも同然である。
そして、中央党校の2人の教師が同時に立ち上がって党指導部に反乱の狼煙を上げたこの事態は、習近平指導部が党内の統制に失敗していることを示していると同時に、共産党は思想・イデオロギーの面においてすでに収拾のつかない混乱状態に陥っていることを如実に物語っている。
このようにして、道徳倫理が堕落して腐敗が蔓延し、経済も凋落しているのに加え、政治も大変な混乱状況に陥っているのがまさに今の中国の姿である。こうした中で、あの李嘉誠氏でさえ中国からの全面撤退を進めているのだから、日本の経営者たちも、いわゆる中国ビジネスのあり方をもう少し慎重に考えた方が良いのではないだろうか。
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