2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月7日

 この動きは、中国が核による最低限抑止を標榜していた頃の政策姿勢が大きく変わってきていることを示す。

 米ロ間の新START条約では、米ロ共に1,550の核弾頭しか配備できないことになっており、米ロ共にこの制限を守っている。ただ、今年3月に、ロシアは新START条約の一部履行停止を決め、米国もデータ交換などの履行停止を宣言した状況にある。

 その状況の中で、中国が配備核弾頭数を2030年までに1,000発に増やすというのは世界の核バランスに大きな影響を与えると思われる。中ロはますます準同盟関係になっているので、もし米国が今の戦略核弾頭数1,550発のまま、中ロの戦略核弾頭数の合計が1,000+1,550=2,550発に達した場合、核の戦略的バランスの安定性が維持できなくなる可能性があり、大変心配である。

 加えて、中国による通常兵器ICBMの開発も大きな問題をはらんでいる。

 この核バランスの問題は、今一度考えてみる必要があるだろう。

技術情報盗取にも注意

 冷戦時代に米ソ間でグローバル・ゼロを決めたINF条約は、今、失効している。当時、ソ連がSS-20を配備して、ドイツのシュミット首相が米欧の安全保障のデカップリングが起きると騒いだことを思い出す必要もある。

 また、今年の報告書は、米中間の軍同士のコミュニケーションが途絶えていること、中国の航空機が米国や同盟国の航空機に危険な接近をした事例の増加などにも言及している。米軍とPLA間のコミュニケーションの維持は双方の利益になることであるから、現状は改善されるべきであろう。

 AIの軍事利用のための中国による技術の盗取については、日本を含む西側諸国が防衛策を講じていくしかない。日本もFive Eyes諸国と協力していくことが望ましい。そのためには、情報の収集と管理(セキュリティ)の質を、日本として、早急に改善しなければならないだろう。

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