2024年7月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月6日

 ザカリー・ケック元米下院外交委員会スタッフが、「中国に恥をかかせて核軍備管理協議に誘い出せ」との論説を2023年8月9日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙に掲げ、静かな外交は失敗しているので、米国は、中国の核軍拡に対応して、各種軍備管理提案を公式に行い、中国に世界世論の圧力をかけるように動くべきだと提案している。

(serggn/gettyimages)

 何年間も、米国は中国が軍備管理交渉への参加を決断するよう、静かな外交を続けてきたが、戦略的忍耐は失敗した。今や、公の形で中国と交渉を始め、中国指導部に圧力をかけ、交渉の席に着くか、そうでなければ軍拡競争の責任を取らせるようにすべきだ。

 今日、中国は、能力意図双方が不透明なまま核軍拡をしている。中国の核軍拡は、世界的な核の危機の増大と軍備管理合意の急速な弱体化の中で行われている。米国は、同盟国などと協働で軍備管理案を作り、国際会議などで容赦なく中国側にその受け入れを迫るべきだ。中国が具体的条件をそのまま受け入れる可能性は低いが、中国に迫ることで、中国が交渉に入るための圧力をかけることができる。もし交渉が開始できなくても、中国は国際世論の批判を受ける。

 多くの提案が可能である。まず、中国の核軍拡の核心は、プルトニウムの再処理だ。中国は、これらの再処理施設は民生目的限定だと説明してきたが、2017年に、他国がしているようなプルトニウム蓄積量の自主的開示を停止した。プルトニウム再処理の世界的凍結や、これらの施設に対する国際原子力機関(IAEA)の厳しい査察は、全般的懸念低下に繋がる。他の提案もできる。軌道を共有する衛星は他の衛星除去に使用し得るので、米国は、宇宙での「真珠湾」を防ぐため、他国の軍事衛星の近くに同軌道の衛星を置くことの制限を提案しうる。米国と同盟国は、地上配備型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に多数の弾頭を装着することの禁止、または、核兵器と非核兵器の混在の禁止も提案し得る。

 中国の核軍拡により、対話と交渉は不可欠になった。静かな外交は上手くいっていない。詳細は議論すればよいが、米国は中国に国際世論の圧力をかけるように動くべきだ。

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 正に、中国の核軍拡により対話と交渉は不可欠になった。2010年の第一回日米拡大抑止協議での日本の要請にもかかわらず、圧倒的保有数の差と中国の拒否を理由に、中国の核軍拡に特段の対応を取ってこなかった米国は、そろそろ真剣に具体的対応を検討すべき時期に来ている。日本も拡大抑止協議において各種の提案ができるはずだ。


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