2024年7月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月6日

 中国が米露と同じレベルの数の核兵器を保有した後に初めて核軍備管理交渉に応じるだろうという想定は現実的かもしれないが、中露が力を合わせることを考えれば、それ自体既に米国の敗北を意味する。そうなる前に対応することが必要だと思われる。

 もう一つ、米国の弱みは、同盟国に対して、核抑止の信頼性を維持する必要があるということだ。そうでなければ、韓国のように、自らが核兵器国になることを志向する同盟国が出てくる。多くの危険な核拡散予備軍が居る中で、そのマイナスの影響は計り知れない。ただ、先の日米韓首脳会談に見られるように、尹政権の貢献で、日米韓の安全保障協力が強化される中で、この点での危険性は大分低下しているように見える。

 現実的に考えれば、米ソ間で行われてきた核兵器の数の制限を提案する限り、現段階で米露の核兵器数に劣る中国がそれを受け入れる可能性は皆無に等しく、また、それに対して国際世論の圧力がかかる可能性は高くないのは事実だ。

 だが、この論説が言うように、それ以外に、国際世論の支持を得るために行い得る多くの提案がある。米国は、早めに具体策を検討し、それを日米韓で議論すべきだ。その際、当然、日本からも具体的提案をすべきだろう。

プルトニウム再処理の世界的凍結の提案も手の一つか

 まず米国は、今後の自身の核態勢の基本的な方向性、即ち、ロシアとの基本的信頼が崩壊し、同盟国の信頼維持のためにも中国の核軍拡に数の上で対抗していく必要がある。そのため、米国は、1980年代末以降初めて核軍拡に舵を切るのか、または、ウクライナ戦争終了後にロシアと核軍備管理について再確認し、それを持って中国に圧力をかけるのか。

 プルトニウム再処理の世界的凍結は、日本にも影響がない訳ではないが、だからこそ、これを提案する意味は大きいだろう。日本ほど厳しいIAEAの査察を受けている国はないので、中国に対するIAEAの査察強化も良策だ。

 更に、忘れてはならないのは、中国の核軍拡のインド・パキスタンへの影響を緩和するための施策の必要性である。インドが同様の核軍拡のスパイラルに陥らないためには、インドの核能力の信頼性と残存性向上が必要となるが、そのために、水爆デザインや原潜用原子炉デザインの対印シェア(AUKUSのインド版)など、米国ができることは多いはずだ。それは、インドのこちら側の陣営への取り込みをより強固で永続的なものとするだろう。これらの点こそ、日米両国が拡大抑止協議で真剣に議論すべきことで、その期は熟している。

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