既にここ1週間で米国の標準油価指標のWTIは、半年前の60ドル代から高騰して一旦90ドルを付けている。去年のロシアのウクライナ侵攻後、油価は一時100ドルを超えおり、イスラエルのガザにより、100ドル位には上昇するであろう。
今回の出来事によりアラブ諸国で民衆の感情が高まっている。今後、イスラエル軍がガザに突入するとパレスチナの一般市民に多くの犠牲者が出ることは避けられないと思われるが、アラブの民衆はますます激高し、自分たちの政府に対して何とかするようデモなどを通じて要求するだろう。
アラブ諸国は、いずれも独裁体制だが、2010年の「アラブの春」で民衆のデモでエジプトやチュニジアの長期独裁政権が倒れた教訓から、民衆に対してある程度妥協せざるを得ない。
問題は、アラブ諸国が単にイスラエルと米国やその他のイスラエルを支持する諸国を非難したり、最近、イスラエルと国交を結んだUAE、モロッコ等が大使の召喚、外交関係の断絶等の外交的措置を取ったりすることでは民衆の怒りが収まらない時である。その可能性は高い。
この場合、73年の石油禁輸のような米国を本気で怒らせる過激な措置は取らないが、アラブ産油国がパレスチナに連帯して一層の減産を行う可能性がある。これは油価を高止まりさせたいアラブ産油国の指導者達にとっても、良い口実となる。
イランはどう動くのか
イランは、イスラエルに警告を発するのみならず、レバノンのヒズボラからの限定的な攻撃、イエメンのホーシー派によるミサイル攻撃、シリア、イラクの米軍への攻撃と自国の影響下にある代理勢力を使って緊張を高めている。しかし、本気で関わる気はないとみられる。
第一に、今回の出来事でイランは、サウジアラビアとイスラエルの国交樹立を阻止するという、欲していた結果は得ているからである。第二の理由は、ヒズボラの重要性である。ヒズボラは世界中でほとんど唯一のイランのイスラム革命体制の支持勢力でもあり、その存続はイランにとり極めて重要なのでイスラエル軍との全面衝突でヒズボラ(イスラエル軍には全く敵わない)を失うわけにはいかない。
イランはオポチュニストであり、自国のポジションを高めるために現在の状況を利用しようとしているものと思われる。具体的には代理勢力を操るイランの能力を示すことにより国際社会にイランの重要性を印象づけ、対岸の湾岸協力会議(GCC)諸国を威圧したいのであろう。
しかし、何時、計算違いにより、イスラエル・米国との間で不測の事態が起きてもおかしくない。その場合は、中東は大混乱に陥り、油価は天井知らずに上昇するであろう。そのペルシャ湾地域に日本は原油輸入の95%を依存しているが、日本では危機感に乏しい。