2024年5月19日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月30日

 ニムロッド・ノビック(ペレス元首相の上級補佐官)が、2023年10月12日付の英Economist誌に、「ハマスの攻撃を導いた誤った前提とヴィジョンの失敗。長期的にはイスラエルにはパレスチナ当局(以下PA)以外に和平のパートナーはいない」との論説を寄せている。

(kazuma seki/Ruma Aktar/gettyimages)

 如何にしてイスラエルがハマス攻撃のショックに直面するに至ったかを評価するには、イスラエル指導部の二つの誤った前提を考える必要がある。

 第一に、過去14年間、ネタニヤフ首相は、パレスチナ問題について「分離」戦略を追求してきた。これは二つの柱からなっていた。ガザでは好戦的なハマスの統治を崩すことを避け、ヨルダン川西岸では穏健なPAを崩すように行動した。

 第一の柱は、ハマスがイスラエルへの攻撃を差し控える等の見返りに、ガザへの包囲を時折緩めることを含んでいた。イスラエルは、カタールからガザへの資金援助、ガザ住民がイスラエルに働きに行くこと、水と電力の提供増大等を許しながら、停戦をハマスに要求する考えだった。しかし、07年にガザの支配権を得て以来、ハマスが「取引」を無視した事例は多い。

 同時にネタニヤフの西岸政策は、PAを弱体化することで、PAが現実の交渉者となることを阻止しようとした。この政策は現政権で劇的に悪化した。対パレスチナ人のユダヤ人のテロの増加、入植地拡大等のペースが上がっている。

 これは皆イスラエルのしたこととは言えない。05年のイスラエルのガザからの完全撤退はパレスチナ人に自治の機会を与え、イスラエルの隣に平和的なパレスチナ国家の約束を示す機会を与えた。イスラエルはPAの無能力、汚職等に影響を与えたかもしれないが、イスラエルに唯一責任があるわけではない。

 しかし、イスラエルは失敗した「分離」戦略を放棄し、逆のことをすべきである。イスラエルはハマスらテロ組織と闘い、イスラエルの主権と安全保障に挑戦できなくなるようにすべきであるが、同時にPAを強化するために政治的投資を行うべきである。長期的にはイスラエル人は彼ら自身とパレスチナ人の双方に良き未来を作る上でPA以外のパートナーはいないからである。

 10月7日に崩壊した第2の誤った前提は、パレスチナ問題を無視してアラブ諸国と関係を正常化し、その後幸福に生きていけるとのネタニヤフの主張である。もし手当てをしないと、イスラエル・パレスチナ紛争はそれ自身を議題にしてくるとの長い間の真実が今回も証明された。

 バイデン政権が地域大国も含む幅広い連合の形成という米国の得意技を採用すれば、イスラエルの滑落を逆転するプロセスが始まるかもしれない。


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