この論説は、ニムロッド・ノビックがEconomist誌の招待に応じて投稿したものである。彼の論旨には基本的に賛成できる。労働党がイスラエルの政府を作っていた頃の考え方に即した議論であり、パレスチナ問題は2国家解決しかなく、そのための合意は、
イスラエルとパレスチナ自治政府間でしか結べないという現実を踏まえている。
しかし、今のネタニヤフ政権は極右連立政権であり、このノビックの意見がすぐに取り入れられることはないだろう。今回のハマスによるテロの後、イスラエルは地上作戦を含め、ハマスを徹底的に叩くことになると予想される。
少し歴史をさかのぼるが、ハマスは第1次インティファーダの時にアラファトが率いるパレスチナ解放機構に対抗して結成され、イスラエルはアラファトの力を弱めるために秘密裏にその創立者アフムード・ヤシーンを支援していた。イスラエルはパレスチナを「分断」することが自分の立場を強めると信じて、そういう政策をとっていた。
しかし、ハマスはアラファトに対抗する社会運動をする一方、イスラエルへの抵抗運動もしていた。ヤシーン自身は、イスラエルの攻撃で殺害された。
いずれにせよ、ハマスをパレスチナ解放機構に反対させ、アラファトを弱体化させるのを妙手と考えるような時期がイスラエルにはあった。しかし、ノビックが言うように、これは誤った前提であったと思われる。西岸のパレスチナ自治政府と和平交渉を進めると言うのが正統でまともな政策方針であろう。
取り残されそうになっていたハマス
今回のハマスの攻撃には、パレスチナ問題以上の問題も背景にあったと考えられる。サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉、米国とサウジアラビアの安全保障条約交渉、サウジアラビアの民生用原子力利用への米国の協力など、複雑な交渉が行われていた。が、そういう中でハマスは中東の地政学が大変動をする中で、取り残されるとの危機感を持ったことも、今回のテロの一因ではないかと考えられる。イランはもちろんサウジアラビアとイスラエルの国交正常化には反対である。
今後の展開の中で、ハマスとイランの協力、レバノンのヒズボラのイスラエル攻撃、シリアにあるイランの民兵の対イスラエル行動等がある可能性もある。
サウジアラビアとイスラエルの国交正常化については、これは当面すすめられない状況になったとみられる。ハマスがこの阻止を狙いの一つにしていたなら、目的を達したことになる。