2024年5月27日(月)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年11月4日

 農林水産省が発表した指針はつぎのとおりである。(日本農業新聞の要約から)
①牛 フリーストール牛舎では、少なくとも1頭当たり1牛床を準備。つなぎ飼いでは、定期的に放して運動させる。過去の分娩時の傾向を踏まえ適切な時期に分娩区域に移動させる。
②鶏 ケージ飼いは、自然な姿勢で移動できる飼養密度に。窓のない密閉型のウインドレス鶏舎を含め鶏への悪影響が最小限となるよう管理。24時間以上の絶食はさせない。
③豚 去勢、断尾、歯切りは出来るだけ早期に。ストール(檻)は快適に横になれる大きさに。妊娠、分娩ストールは使用可。

 新聞の解説では、「指針は法律などには定めず、守らない場合も罰則はない」「アニマルウェルフェアは家畜のストレスを和らげ、疾病の発生を抑えるなどの利点がある一方、生産コストが膨らむ可能性も指摘される」と報じられていた。

 さらに、一部には、「日本の畜産物輸出はアジア中心で欧州向けは小さい。EUの基準に合わせる必要があるのか」などと、やや負け犬的な反論まで聞こえてくる。

輸出拡大にも密接にかかわる

 政府は、農林水産物・食品の輸出を、2030年に5兆円(2025年は2兆円)に拡大するという目標を内外に向けて掲げている。<牛肉が輸出重点分野><需給調整が難しい牛乳・乳製品も輸出をスタート>といった具体的な施策も出ている。いわば、最重要の課題であり、引き返すことは許されない。

 これらを実現するには、欧米市場で受け入れられる基準とその認証制度を整備することが不可欠である。今回の指針は、クリアすべき最低ラインを示したと捉えることもできるが、それでは淋しい。欧米の動きを見つつ、さらに高いレベルを目指し、実行することを明言(公約)してこそ希望が出て来るのではないだろうか。

 実際、ニュージ―ランドの牛肉は、日本向け輸出に当たり、安全・安心、疫病ゼロ、ストレスフリーは安全の母、自然な飼育のなせる業、百年先を見通して牧草地を守るなどの標語でPRし、安全・安心、アニマルウェルフェア、環境・循環などを輸出・販売上の売りにしている。

 また、EUでは、さらに厳しい基準を超えた認証をブランド化し、世界の市場で生き残るビジネス戦略を進めている。原産地呼称保護(PDO)、地理的表示保護(PGI)、伝統的産品保証(TSG)、有機食品表示(BIO)といった公的審査機関の審査を受けて、登録されたものを有利販売でき、利益率の高い商品として売り出せる仕組みができている。

 前出の研究会の講師は、「環境と農業に関しては、日本が一番遅れている」と指摘していた。実際、基準があっても、日本はとかく最低線を狙いがちである。罰則や強制力もなければ、国際競争には勝てない。先進国として、後塵を拝するのでなく、トップを目指すべきだろう。

輸入飼料穀物依存の畜産から脱却

 わが国でも、全国各地で、畜産農家がアニマルウェルフェアに十分配慮した飼養に努めきてはいるが、肉牛でいえば「サシ重視」の肥育と格付け評価、乳牛では「乳脂肪重視」、養豚では「飼料穀物多投」の飼育、養鶏でも「成長重視、価格重視」のブロイラー、採卵といった流れからは脱することが難しく、まだ多数派になる状況にはない。

 テレビ番組「ポツンと一軒家」にも登場した北海道様似の駒谷牧場の経営者の話を聞いたのは、10年以上も前の農林漁業振興協議会の場でのことだった。霜降りでない牛肉の売れ行きが良くない中で、わずかに残った「アンガス種肉牛」を林間に放牧し、ストレスがたまらない健康的な牛肉を、シェフや消費者の理解を得ながら流通させていくことの難しさ、苦労の跡を痛感させられた。そして、いま、後継者の方が、豚の放牧にチャレンジしているという。


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