2024年5月20日(月)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年11月4日

 そうした動きは、全国各地に高まりつつある。1970年ごろだろうか、岩手県の川井や遠野で見た春から秋にかけて山で過ごし冬に牛舎で飼育する「夏山冬里」と牛の放牧によって雑草の処理と土壌のかくはんを行う「蹄耕法」での放牧と草地づくりの畜産、長野県小谷村の「放牧豚=野豚」のブランド化など、小さな事例かもしれないが、アニマルウェルフェアとヒューマンヘルスの双方に貢献できる畜産の姿がある。 

 ただ、脂肪分が少ない赤身の高タンパクな肉牛「いわての短角牛」やアンガスF1が苦戦しているのも事実。サシ重視で赤肉が不利になる流通や販売上の「格付け」が続いていることは否めない。

 見直しが始まっていると聞くのは喜ばしいことである。健康・環境への考え方、行動も変わりつつあり、公的な応援体制も必要ではないか。

「草地型畜産」へのシフトはできるか

  最終的に行き着く先は、やはり、輸入飼料穀物に多くを依存しない、国内産のエサ、「草地型畜産」への切り替えである。そうやって生産された「健康的な畜産物」への消費者からの正当な評価がセットとなり、流通、利用、調理の面での応援や格付けなどの体制整備である。

 身近なところでは、耕作放棄を押しとどめようと、大分や山口では行政も応援して実施している有休農地や森林を利用した「素牛飼育」の手法「レンタ・カウ制度=牛の舌刈り」も中山間地の地域振興や耕畜連携として発展してほしい。

 その耕畜連携で、なによりも大事なことは、ヒトの都合ではなく、「牛の事情、消費者の理解」である。牛も、豚も、ニワトリも、野原を走りたがっている。それによって畜産物に価値が生まれることが一番である。

 日本農業新聞のぼやきのように、「国として指針を持つことでアニマルウェルフェアを国際基準で推進していくとの印象付け」を狙っているようにみられたのではたまらない。内容を充実させ、実効性を確保し、支援を強化し、そして、環境・循環の面での先駆けとなるくらいの意気込みで、高みを目指してほしい。

   
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