2024年11月13日(水)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年5月29日

 4月末の日本経済新聞や日本農業新聞(日農)の報道で「食料危機に備え法制度」を見て、なぜかデジャビュ(既視感)に襲われてしまった。「まさかこの時代に」と思うのだが、5月11日の朝日新聞、15日の時事通信でも再び記事化され、さらには、食料・農業・農村基本法見直しを検討している農林水産省の審議会の『中間とりまとめ案』(5月19日)にも、食料安全保障上で不足時における「政府対応の法制化」が盛り込まれるに至って、コメントを加えたくなった。

(Irina Gutyryak/gettyimages)

 『新たな法制度を検討』として例示されている事項を、新聞各紙からピックアップすると、日農が「農家への緊急増産の指示」「買い占め防止」「価格高騰の規制」、日経が「食品製造業などからの売渡しの指示」「花き生産の農家らにカロリーが高いイモや穀物への生産転換の働きかけ」「物流事業者に対する輸送先変更や保管命令」、朝日が「限られた食料がまんべんなく消費者に届くよう事業者に指示」「配給制も視野」、時事が「農家、企業への増産指示、流通の規制」「事業者に生産資材の保管を求める」などである。

 これは、太平洋戦争の戦時体制下と終戦直後の統制経済の再現ではないのか。この際、1940年代に立ち戻って、何がどんな法制度と手法で行われ、どんな効果や失敗があったのか、チェックしてみたい。

戦中・戦後の食料等の統制法規に重ねると……

 まず、1942年の食糧管理法は、戦時の食料ひっぱく状態の下で制定・施行された。不足している食糧について、年齢別、職業別に一人当たりの供給量を国が定めて「配給」する。

 コメ・麦のみでは足らないので、イモ類、雑穀も含めたカロリー源となる基礎的食糧が対象になっていた。配給通帳で数量を確認し、平等に配給仕組みとした。政府が個人の必要量を上から指定、それを上限として分配する。これを「配給統制」「流通規制」という。

 配給計画、配給量が決まっても、これを裏打ちする「物量」が確保できないので、終戦後の46年に、食糧緊急措置令によって、「強制供出・徴発(隠匿の回避)」が定められた。終戦直後の弱体化した国家権力を法による強権的措置で補い、米軍の協力と多数の警察官の組織動員で可能にしていったのである。違反者には最高5年の懲役刑がある。

 しかし、経済実態としては、「ヤミ流通」が横行し価格の大混乱が起きる。これを踏まえ、公定(上限)価格を決めるため、同年に物価統制令が施行される。コメのみでなく、一時、「統制価格の指示」が国民生活のあらゆる分野においてなされ、「指示1万件」ということもあったらしい。

 最後の決め手はやはり、物量、とくに基礎的食料の物量の確保である。そのための措置として、48年には、主要食糧(食管法の食糧)の増産のために食糧確保緊急措置法が定められた。政府、都道府県、市町村が「農業計画」を定め、主要食糧農産物の生産・供出数量の割当て、生産に必要な肥料、農薬、農機具等の配給数量を定める。

 市町村長が生産者別・作物別の計画を定めて指示する。つまり、これによれば花の作付けを制限して穀物、イモ類の作付けの指示ができる。指示、命令の違反者には罰金刑が科せられる。

 どうだろう。これらは、なんだか、「法制度などを検討する」とされている構想とよく似ている気がするが、思い過ごしか。そして、これは、生産者や消費者にとって、公平で幸せな状態なのだろうか。創意工夫を生かせる仕事・人生・産業の在り方と言えるのか。


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