2023年12月8日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年5月29日

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渡辺好明 (わたなべ・よしあき)

新潟食料農業大学学長

1945年生まれ。68年3月、東京教育大学文学部卒業し、同年4月に農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長などを歴任。2018年4月に新設された新潟食料農業大学で学長に就任した。全国農地保有合理化協会会長も務める。

 合わせて述べておきたいのは、長いサプライチェーンの中の各段階には、それぞれに物資が分散して存在しているということである。これらは、市場原理が活きることにより順次、目詰まりを解消しながら消費段階にしみ出してくるものである。

 戦争直後の「ヤミと買い出し」もそうであったし、コメの不作が4年連続した1980~83年でも、需給計算をすれば「完全にショート」の状態であったにもかかわらず、食糧庁の専門家は動じることなく、「必ずコメは(流通パイプから)出てくる。78年産米の古古米を活用する工夫も出てくる」と落ち着いていて、その通りだった。政府が騒ぎ立てることがパニックを呼ぶというのだ。

 結局、過去の事例では、統制経済はおよそ失敗だらけで、その矛盾を補ったのは、庶民の知恵と現実的対応(個人間での調整)であった。「よい統制」などというものがあるのかどうか大いに疑問である。

「非常時において」 と 「非常時に備えて」 は違う

 食料・農業・農村基本法にもある通り、国内農業生産の増大を基本としながら、備蓄と輸入を適切に組み合わせることが必要であることは変わらない。ただし、その具体的中身については、時代の変化、国際情勢等に応じて、精査し、改善を加える必要がある。

 食料安全保障上のリスクについて「日本の食料自給率が低い」という声があるが、その解決策は、①輸入飼料穀物依存の畜産と②コメの生産調整(生産縮小)、③耕地利用率の低下に行き着く。農林水産省の解説でも、食料自給率低下の要因は、「米中心の食生活から、肉・乳製品指向へと食文化が変化しており、自給率の低い高脂肪、低カロリー食材の需要が伸びた結果、これらの食材の輸入量が増え」とある。

 すなわち、①畜産のあり方を変える、または、国産飼料で対応する、②コメを大いに作る(国内需要を超える分は、日ごろは輸出に活用する)、③耕地利用率を上げるために裏作や田畑輪かんなどで麦、大豆を作る、尽きるだろう。

 コメ減らしをこのまま続けていてよいのか、輸出を大きくして非常時には国内供給に回すという国際競争に耐える支援策はどうか、欧米の主流となっている「直接支払い」手法の導入をもっと真剣に検討すべきではないか。備蓄も種類を増やすなどの改善は必要ないか、輸入先国の多角化へ検討の余地はないか、輸出国との友好関係の構築はできているのか、穀物型畜産から草地型といった畜産政策の変更はどうか、土地の有効利用はできているのか、なども考える必要がある。

 世界に冠たる生産・環境装置たる「水田」を守らなければ、農村という地域社会の健全な発展はない。そろそろ、コメの生産調整を止めて、大いに輸出できるよう政策を見直そう。 “ コメは宝だ 宝の草を 植えりゃ 黄金の花が咲く ”(田植えの歌)のである。

 終わりに、重ねて強調しておきたいのは、非常時に大きく焦点を当てた食料安全保障で、完璧を期そうとするなら、かえって生産者の意欲や創意工夫を削いでしまい、産業としての根本、すなわち、効率的・安定的な国内生産に支障をきたすことになりかねないと考える。

 産業と商取引を制御しようとして悲惨な結果を招いたナチスドイツ、ファシストイタリア、スターリンの共産主義・ソ連、毛沢東の中華人民共和国の轍を踏んではならない。

   
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