ある研究会で、国際的な環境・農業の動向や方向に精通している講師から、「英国は、豚も〝庭付き一戸建て〟の時代です」と聞かされ、「世の中はそこまで来ているのか」と驚き、かつ、深い感銘を受けた。
欧州連合(EU)などでは、「農業は、環境にとって必ずしもよいものではない」というのが共通認識となっており、環境に悪影響を及ぼさない農業政策が採用されている。いかなる畜産業でも「家畜1頭当たりにつき一定の農地面積の確保」が義務付けられており、これを守らないとEUから農家への所得の「直接支払い」は受けられない。
かつて、「農地面積に関わりなく家畜1頭当たり一定単価」で支払ったことで、明らかに環境へ悪影響を及ぼした時期があったことに対する政策の見直しである。また、畜産業の場合は、家畜の糞尿が、物質循環の流れにしっかりと組み込まれるように、農地への糞尿還元ができる時期を限定するため「分解が進まない冬は除く」としている。
この点については、「1頭当たり一定の農地保有を義務付ければ、家畜の生育環境、健康にとってもよい効果を生むし、家畜の排泄物を国土に滞留させないで済む。環境・循環、健康がワンセットになった政策」になると考えられている。
この条件なら、家畜には健康的でストレスがたまらない、環境・循環にもよい効果があるとし、「庭つき一戸建て」と表現されたところに妙がある。
日本のアニマルウェルフェアへの姿勢
わが国でも、経済国際化の流れの中で、アニマルウェルフェアへの対応が農畜産政策の課題となっている。2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、調達基準に盛り込まれ、23年には、民間基準ではなく、農林水産省から、「アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針」が示された。
また、時期を同じくして、25年の大阪・関西万博では、「持続可能性に配慮した調達コード(第2版)」の畜産物の項目で盛り込まれ、OIE(国際獣疫事務局)のガイドラインが採用されている。
ここには、具体的な解釈として、「JGAPであれば原則認める」と記されている。農産物の安全性や品質を認証するGAP制度もここまで来たかという思いとともに、まだまだ「畜産GAP」の認証農場が少ないことが気にかかった。いずれにしても、GAPの大きな流れは止まらない。
地球温暖化の防止、二酸化炭素削減の動きが進む中で、24年のパリオリ・パラ、30年&34年の冬季オリ・パラでは、おそらく「調達基準」のさらなる強化は避けられず、高みを目指した改革努力が必要になろう。