従って、バイデン大統領にはイスラエル寄りの発言をするという選択肢しかないが、他方、若者の感情を汲み取れば、パレスチナへの人道支援を強調することが不可欠となる。同大統領は、女性、黒人、ヒスパニック系、若者、LGBTQIA+(性的少数者)の「異文化連合軍」の票の組み合わせで来年の大統領選挙に勝つ戦略を立てているため、どの一つのグループも疎かにできない。しかも、民主党ではパレスチナ系のラシダ・タリーブ下院議員など、リベラル派議員は戦争の即時停戦を訴えている。このように見ると、同大統領の「パレスチナに対する人道支援」(10月10日の演説など)は、若者とリベラル派へのメッセージであるともいえる。
また、デトロイトなど各地で「反ユダヤ主義」と「イスラム恐怖症」双方に基づいたヘイトクライム(憎悪犯罪)が発生している。この傾向は、イスラエルとハマスの軍事衝突の激化次第で強まるかもしれない。分断した米国社会から統一した社会の実現を目指す同大統領は、国内のユダヤ系とイスラム系双方への配慮も怠らない。
さらに、状況を複雑にする要素として登場したのが、若くリベラルなユダヤ系ロビー団体「Jストリート」である。08年に創立した新興のJストリートは、ドナルド・トランプ前大統領を支持する白人至上主義者の「反ユダヤ主義」と戦うバイデン政権を評価している。前回の米大統領選挙においてJストリートは20年4月17日、バイデン前副大統領(当時)支持を表明し、「バイデン陣営に24万ドル(約2568万円)が送金される予定」であり、「投票日までに100万ドル(約1億700万円)の資金を集めると約束」した。
今回のイスラエルとハマスの戦争でも、ガザ地区への地上侵攻を視野に入れたイスラエル政府が、24時間以内にガザ北部にいる100万人以上の人々に対して南部への退避勧告をすると、Jストリートは「それは不可能であり、さらなる惨事を招く」と、同政府を批判する声明を出した。また、米国がイスラエル、エジプトおよび近隣諸国と協議を行い、人道回廊を設置し、同地区における人道支援をするように強く求めた。もともとバイデン大統領は人権や人道に深く根差した政治姿勢を保ってきたが、これまでのバイデン大統領の発言は、Jストリートの要求と一致しており、同大統領が来年の大統領選挙においても、Jストリートから支持を取り付けたいのは明らかだ。
若きバイデンが面会
ゴルダ・メイアの言葉
第三に挙げられるのは、リーダーの相手国に対する個人的感情である。バイデン大統領はウクライナよりもイスラエルに対して、より強い個人的な感情を抱いている。同大統領は演説で、50年前にイスラエルを訪問したときのある出来事を紹介することがある。
1973年10月6日に勃発した第4次中東戦争の5週間前、バイデン大統領とゴルダ・メイア首相(当時)が面会した際、30歳の若き上院議員に彼女はこう言った。「あなたはどうしてそんなに心配そうな表情を浮かべているのですか。われわれは心配していません。イスラエルは秘密兵器を所有しています。われわれはどこにも行きません」。