バイデン大統領はその言葉にリーダーとしての強固な決意を感じ取ったに違いなく、そこから生まれた共感が、上院外交委員会におけるイスラエルとの数多くの「場」と「機会」を通じて、米イスラエル関係の深化の元となったことだろう。
このようにイスラエルは米国に対して、①同盟国の地位を持つ優位性、②強いロビイング力、③リーダーが相手国に対して抱く個人的レベルの好意的感情という三条件を有している。③に関しては、当然ながらバイデン大統領のケースのように、偶然性やリーダー自身の性格にも左右されるところがある。
翻って日本は?
共感引き出す努力を
翻って日本は、米国にとって重要な同盟国である(①)ことは間違いないが、「金」と「票」(②)およびリーダーの「個人的感情」(③)ではイスラエルに遠く及ばない。
現状の日本には、AIPACやJストリートのような強力なロビイング力を持った組織はないし、それを育てるシステムもない。となると、同盟関係を強化しつつ、偶然性に依存することなく、ありとあらゆる「機会」を捉え、「場」を活用して日本に対する〝共感〟を引き出せるようなリーダーを育成することが望ましい。
では、なぜ共感が必要となるだろうか。筆者の専門である「異文化間コミュニケーション論」では、次のように説明できる。
国と国の関係強化は、軍事支援や「金」、「票」のみではない。相手国の人々が重視する信念、価値観や考え方のパターン、すなわち、「潜在的文化」ないし「暗示的文化」を理解することが極めて肝要である。より深く理解するだけでは、「知」のレベルにしか至らない。「知」だけでは自国の利益に利用するのみで終わるかもしれない。しかし、深い理解に根差した〝共感〟があれば、互いに良い妥協を求めて努力を尽くすだろう。そうした時に、「親日(米)」という言葉が生まれる。
存命する知日派であり親日派でもあるロナルド・モース氏は、カリフォルニア大学バークレー校で東洋史を学び、プリンストン大学大学院では日本研究で博士号を取得した。その後、米国政府の各省庁で、対日防衛政策、対日政策、エネルギー政策に携わった。
モース氏は柳田国男の『遠野物語』に共感を覚え、逸話や伝承を通じて、日本人の思考様式を理解し英訳を出版した。その実績が評価され2012年、「遠野文化賞」を受賞した。モース氏にとって、当初日本文化は全くの異文化であったが、それを受容して敬意と共感を示した。今こそ、日本人を含め全世界が、異文化に対する理解と共感が世界平和と安定に貢献することを強く意識し、モース氏のように理解と共感を行動に移すときではないか。