ロビイング力抜群のAIPACと
新興団体「Jストリート」
今次、イスラエルとハマスの軍事衝突が起きると、多くの米連邦議員がイスラエル支持を直ちに表明した。その背景の一つには、政治献金の力がある。
米国の政治資金の流れを追跡している非営利団体「オープン・シークレッツ」によれば、AIPACは22年、民主党下院議員124人と共和党下院議員180人に政治献金を行っている。
下院の定員435人に対して、合計304人、約70%の議員に献金をしたことになる。一人当たりの平均献金額は民主党下院議員が3万8725ドル(約511万円≪当時の年間平均レートで換算≫、以下同)、共和党下院議員が2万698ドル(約273万円)で、下院に対する献金額は合計で852 万7667ドル(約11億2560万円)であった。
一方、AIPACは上院議員に対しても、民主党議員12人と共和党議員14人に献金を行っている。上院の定員100人に対して、合計26人、約4分の1に当たる議員が献金を受けた。ただし、一人当たりの平均献金額は民主党議員が6万3846ドル(約843万円)、共和党議員が4万7423ドル(約626万円)で、両党の下院議員の平均を大きく上回っている。上院に対する献金の合計は、143万84ドル(1億8870万円)であった。連邦議員からすれば、AIPACは選挙資金を援助してくれるありがたい団体である。
さらに、票の獲得においてもイスラエルはウクライナよりも、はるかに魅力的だ。米国におけるユダヤ系の人口は推計750万人(うち成人が約580万人)と言われる。これに対して、ウクライナ系の人口は約100万人に過ぎない。さらに言うと、パレスチナ系は17万人である。ユダヤ系は米国の人口の約2.3%であるが、現在の連邦議会では約6.9%を占めている。上院は民主党8人(連邦議会開始時は9人。ダイアン・ファインスタイン議員死亡のため1減)、無党派1人、下院は民主党26人、共和党2人である。代表的なユダヤ系議員を挙げれば、上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務だろう。
職業的には、ユダヤ系の人々は教育、医療、芸術、金融、IT、メディア関係、法曹界など、影響力の強い職に就いていることが多い。裏返せば、米国に対する貢献度も高い。
加えて、米国世論の動向にも留意が必要だ。世論はパレスチナよりもイスラエルに同情的なのだ。英誌『エコノミスト』と調査会社「ユーゴヴ」の共同世論調査(23年10月14~17日実施)によれば、「どちらに同情するか」との質問に対して、この時点ではイスラエルの攻撃と思われていたガザ地区の病院の爆発で470人以上の死者が出たにもかかわらず、48%が「イスラエル」、23%が「同等」、10%が「パレスチナ」、19%が「分からない」と回答している。
米大統領は有事とあらば、より迅速に、より強力に、しかも明確にイスラエル支援を表明する。
しかし、昨今は米国内における意見の多様化によって、殊に民主党の大統領は相応の配慮を強いられることになった。例えば、18~29歳の若者だ。10月21日から24日実施の同調査では、彼らの50%が米国はパレスチナ人に「もっと多くの人道支援をするべき」と考えており、「人道支援を減らすべき」を40ポイントも上回っているのだ。