フィナンシャル・タイムズの10月10日付け社説‘A test for the IMF’s legitimacy’が、国際通貨基金(IMF)はその正当性維持のために改革を必要としており、それには加盟国の協力意思が必要である、と述べている。主要点は次の通り。
IMFは、約80年前の創設以来、その正当性につき最大の試練に直面しているといえる。それは、冷戦から通貨の崩壊まで数々の危機を乗り越えてきた。
しかし、今日、IMFは複合的な課題に直面せねばならない。債務累積や気候変動の問題で国際経済が益々軋む中、国際協力は分裂している。
加盟国が協力して改革に取り組まない限り、IMFは世界の緊急融資機関としての影響力を失うだろう。それは、安定確保のための総合的な調停者を必要とする世界経済システムに悪影響を及ぼす。
IMFの重要性への広範な課題は、世界経済の変化から生じている。中国とインドの経済台頭は、IMFのクォータ(出資金と投票権を規定する)の割合の増加に反映されていない。特に欧州の声はIMFで過度に代表されている。
今、IMFは危機融資に当たり中国や湾岸諸国と競合しているが、これらの国々による融資はしばしば不透明な条件で行われている。中国は、IMFの主権国家債務再編の多くの試みを阻止している。
問題解決のためには加盟国の支持が必要だが、それは経済ナショナリズム高揚の中では難しい。米国は、IMFのクォータの均等な増加を求める声を主導している。
それは、190の加盟国からの出資額は増加させるが、投票権の割り当て(比率)は現状を維持するものだ。これはIMFの融資能力向上の第一歩としては歓迎すべきことだ。
他方、新興大国からの資金調達を増大するためには、そのクォータと投票権を増やし、他の加盟国のクォータを下げる必要がある。特にIMFでの中国の影響力を高めるに当たっては、IMFの途上国債務再編への中国の支持とリンクすべきだ。中国は、IMFの原則の遵守なしに発言権を拡大できると期待すべきではない。
更にIMFができることがある。第一に、債務再編に関係する債権加盟国に対しもっと厳しく当たらねばならない。難しい債権者に対する債務支払いの停止を可能とする現行の緊急措置を使用すべきである。また債務再編のプロセスを迅速化するために基金の持続可能性分析をもっと透明にする必要がある。
IMFには、緊急融資としての中心的役割の強化に加え、もっと広い役割がある。気候変動や交易条件の悪化は途上国の財政安定に打撃を与える。基金の予防融資は引き続き重要だ。SDR(特別引き出し権)等のリソースをもっと迅速に動ける多国間開発銀行へ提供することも理に適う。
世界の「最後の貸し手」として行動し、また主権国家債務の再編を主導していくことは、複雑だが不可欠なIMFの仕事だ。IMFを批判する者は、しばしばIMFの誤りに焦点を当てるが、貧しい国々の債務支払い停止やコロナの時の6500億ドル融資等その成功事例を忘れている。
それにもかかわらず、IMFはその役割を果たすためには改革が必要であり、それには、最終的にIMF加盟国の良識と協力意思が必要となることに変わりはない。
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10月12日から14日までマラケッシュで世銀・IMF年次会議が開催された。上記の社説は、それを前に書かれたものだ。
IMFの助言機関である国際通貨金融委員会(IMFC)は10月14日、IMFが「有意義な規模」で増資することを支持する議長総括を公表した。今回米国案に沿って合意に至ることにはならなかった。