2024年6月14日(金)

21世紀の安全保障論

2023年11月22日

無視できないユダヤ系アメリカ人の存在

 風向きが変わった一番のきっかけは、イスラエル軍による反撃により、電力や水道などの重要インフラ施設が麻痺、パレスチナ民間人の死傷者数が増え続けていることである。また、「救援物資をガザ地区に運搬できない」と赤十字社や国連機関がメディアで訴えていることも、「イスラエルによる過剰反撃」のイメージを増長させ、結果、イスラエルに対する支持の低下につながっている、というのが現在の見立てだ。

 しかし、バイデン政権にとって、今回の状況への対応は簡単ではない。1948年の建国以降、近隣のアラブ諸国により常に安全を脅かされてきた民主主義国家であるイスラエルの領土主権を守るか否か、という単純な話ではないからだ。

 最大の理由は、米国社会におけるユダヤ系アメリカ人コミュニティの位置づけにある。2020年という少し古い統計ではあるが、全米に居住するユダヤ系アメリカ人の数は750万~800万人と想定されている。

 彼らの多くは第2次世界大戦前に中東欧から移民してきたユダヤ人の子孫だが、1930年代にはナチス・ドイツの追及を逃れて、また第2次世界大戦終了後は、旧ソ連による弾圧や、イラン革命の影響から逃れるために米国に移住した人々などが多くを占め、総じて、米国内のユダヤ人には「出身国からの弾圧や訴追の危険を逃れ、自由を求めて米国に渡ってきた人々」というイメージが定着している。

 しかも、古くは物理学者のアルバート・アインシュタイン、最近では、女優のナタリー・ポートマンや元財務長官のロバート・ルービン氏ら、ユダヤ系アメリカ人は、政財界だけでなく、映画界など至るところで活躍する著名人が多い。特に、経済的機会を求めてニューヨークを目指したユダヤ人は多く、「ニューヨークにはテルアビブとエルサレムに住んでいるユダヤ人を合わせた数より多くのユダヤ人が住んでいる」とも言われるほど。このため、国内では常に隠然とした政治力を持っている。

 バイデン政権内でも、アントニー・ブリンケン国務長官やラーム・エマニュエル駐日米大使はユダヤ系アメリカ人で、二人とも親戚にイスラエル独立を守るための義勇軍に志願した人がいる。特にエマニュエル大使は、そのような家族の歴史や彼自身の政治手法もあり「武闘派」と呼ばれたこともあった。

 今回の紛争では、このようなユダヤ系アメリカ人コミュニティの中に直接影響が出ている。紛争開始直後から、米国では、イスラエルに移住した家族と連絡が取れない、親戚がハマスへ人質に取られてしまった、イスラエル移住後に従軍した家族を戦闘で亡くした、などのニュースが毎日のように流れてくる。ブリンケン国務長官が超多忙なシャトル外交の日程の間を縫って人質に取られているユダヤ系アメリカ人の家族と面会する時間を設け、イスラエル軍とハマスの間で戦闘が続いている間も、バイデン政権が人質解放に向けた交渉に多くのエネルギーを割いているのはそのためだ。

 また、「ユダヤ人=政治的迫害を逃れて米国に来た人たち」というイメージが根強い米国では、「反ユダヤ主義(anti-Semitism )」的言動については厳しい監視の目が連邦政府レベルでも地方自治体レベルでも注がれている。つまり、バイデン政権にとって、イスラエル・パレスチナ紛争は、限りなく内政問題に近い外交問題であり、イスラエルを支持しない、という選択肢はないのである。

バイデンを悩ませる議会運営

 しかし、前述のようにパレスチナ側に民間人犠牲者の数が増えるにつれ、米国内の世論も割れ始めてきた今、イスラエル支持一辺倒を貫くことが政治的リスクになる可能性も出てきている。というのも、議論が割れ始めているのは政界も例外ではなく、米国議会内では、特に、新人議員の間にイスラム系議員を抱えている民主党内から、停戦を断固拒否するイスラエルの頑なな姿勢を批判する議員が党内に出始めたのだ。


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