2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年12月5日

 中国の最近の計画は、米国の核戦略の変化に強く影響を受けたものなので、米国がこれに対応しようとすれば危険な作用・反作用のサイクルのペースを速め、大規模な核軍拡競争を起こしかねない。

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 中国の核増強に対して米国としてどのように対応すべきかについて、米国の核専門家の中でも意見が分かれている。米国として核増強で対応すべきとの立場と、それでは核軍拡競争を引き起こすので抑制的に対応すべきとの立場である。このフラベルらの論説は、後者の立場に立っている。

 この論説でフラベルらは、中国の核増強が米国の核戦略の変化、特に18年の核態勢見直し(NPR)で示された方針に対応したものであることを指摘し、受動的、防御的な性格であることを強調しようとしているが、この論旨には無理がある。核態勢を見るとき、数量、核ドクトリン、発射態勢、生産体制など、さまざまな角度から見る必要があるが、中国の核ドクトリンがより積極的、攻撃的なものに変化してきているとの指摘は1990年代からなされていた。数量についても、増加傾向は以前から指摘されており、2018年以降に突然始まったものではない。

 米国のNPRは、冷戦終結後、クリントン政権が1994年に行って以来、これまで5回行われている。最初の3回のNPR(1994年、2002年、10年)が核兵器の数量、意義、役割を低減させる方向で作成させていたのに対し(特に 10 年のオバマ政権によるものは注目された)、18年のトランプ政権によるNPRは「核の復権」を志向したと評された。

 その背景にはロシアと中国による戦略兵器の増強、核戦略の変化や安全保障環境の悪化があった。何もないところに突然に2018年NPRが出てきたわけではないのである。

 フラベルらは、「中国の専門家による文献や中国共産党の政策文書の分析」という手法から、「米国が原因を作り、中国はそれに受動的、防御的に反応した」という姿を描いているが、これは一方的に過ぎるだろう

相互に作用してしまう「安全保障のジレンマ」

 このように「誰が原因を作ったのか」については、フラベルらの論説は一面的と言わざるを得ないが、米国、中国がそれぞれの立場から自国の安全保障の確保の措置をとる場合、「作用・反作用のサイクル」によって核軍拡競争に至るという指摘は当を射ている。これは、「安全保障のジレンマ」が相互的に作動してしまう状況であり、制御不可能な状況に陥りかねない。

 米国としては、抑止の確保の必要性と相手がそれにどう対応するのかの両面に目配りした対応とともに、中国との相互の意思疎通によって事態が制御不可能なものとなることを避ける努力が求められる。そうした意思疎通は、中国の利益にも繋がるはずである。

 この点を踏まえれば、11月15日の米中首脳会談で両国の国防当局間、軍同士の対話を再開することに合意されたことは前向きの一歩と評価できる。もっとも、対話のための対話であってはならず、実質を伴わなければ意味がない。

 エマニュエル・トッド氏が「Wedge」2021年10月号のWedge Opinion Special Interview「中国が米国を追い抜くことはあるのか エマニュエル・トッド 大いに語る――コロナ、中国、日本の将来」で、今後の中国社会のあり方について語っております。この記事単体をアマゾン楽天ブックスhontoの電子書籍「Wedge Online Premium」でもご購読いただくことができます。

 

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