2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2023年12月3日

 そして著者はこう指摘する。

 「いかにお金をかけずに視聴するかといった視聴媒体の検討や、ファスト映画や倍速視聴など、いかに『損に対するリスクを軽減できるか』という手段ばかりに気がいってしまうのだろう」

 本書でも触れているが、例えばラーメンを食べるにあたってコスパを追求するときは、目的を達成するためにラーメンを食べる消費体験が必要であるが、動画視聴におけるタイパの追求は「観た状態」になって、コンテンツを介してコミュニケーションができる状態になればいいという。そして「必ずしもその動画を観なくてもいいのであり、その目的を達成しうる手段の効率や費用対効果を比較することがタイムパフォーマンスの本質といえる」という指摘はよく理解できるものである。

日本企業に根付く現状維持志向

 二冊目は「男子系企業の失敗」(ルディー和子著、日経プレミアシリーズ)である。いささか刺激的なタイトルに惹かれて手に取った。

「男子系企業の失敗」(ルディー和子著、日経プレミアシリーズ)

 中身は伝統的な「男社会」を構成してきた日本の企業には現状維持志向が強く、改革という名の下に改善的経営に徹してきた理由を探求している。旧来型の発想や行動パターンが日本企業の成長を阻害してきたのではないかという問題意識に立脚した企業論である。

 一流大学を卒業した高学歴の経営者が「経営者失格」となぜ海外から批判されるのか。著者は広範なリサーチを続ける中で、日本人の現状維持バイアスの強さが日本の「男社会」と深い関係にあることに気付く。そして男性中心の同質性中心集団が現状維持志向をもたらす原因の一つであることに行き当たる。

 確かにこれまで長年日本企業を支えてきた多くの考え方が、時代に合わなくなってきていることは明らかである。会社もいろいろな形があり、企業風土はそれぞれに見られるが、実は横並びの風潮もあって、会社が違っても同じような体質である傾向も多く見てとれる。それらが蓄積して独特の企業社会を形成し、日本企業の特性として認識されるとしたら、グローバルスタンダードからは乖離が生じ、海外の企業と同じ土俵では勝負ができないということにもなりかねない。

 そうした課題の本質はどこにあるのかと考察する中で著者が導き出したキーワードが本書のタイトルにもなっている「男子系企業」である。男中心の同質性社会が長年続いてきたことで、変化への対応力を弱め、柔軟な発想やリスクをとるチャレンジなどを阻む原因になってきたと見る。

 著者は「優れたリーダーがいなければ優れた組織も優れた戦略も生まれないというのが、この30年間の日本企業の有り様をみての結論ではないだろうか」と指摘する。さらに著者は、同質的な組織の傾向から離れた外れ者をリーダーに起用することや、経営者が経営理論やマーケティング感性を身につけることの重要性についても強調する。


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