今年も気が付けばもう師走。何かと気ぜわしい季節だが、忙中閑あり。夜長を充実して過ごせる時期でもある。年末に新たな気づきを得られる本を3冊紹介する。
費用対効果へ過度に傾く懸念
一冊目は「タイパの経済学」(廣瀬涼著、幻冬舎新書)。近年、若年層を中心に「タイパ」「コスパ」を強く意識する人たちが増えてきている。もはや説明するまでもないが、タイパとはタイムパフォーマンス、コスパとはコストパフォーマンスの略である。
なぜそんなにしてまで効率性を追求したいのか疑問に感じるが、スマホやタブレットなど日常生活で使う機器で動画の倍速再生などが可能になったことを受けて、早く展開や結末を知りたいという欲求が高まっているのだろう。こうした風潮の中で、本書はタイパをめぐる社会のさまざまな動きについて分析している。
効率的にお金や資源を使うのは至極当然であるし、節約できる部分を節約することは合理的な経済活動として人々が営んできた長い歴史がある。「タイム イズ マネー」という言葉があるように、時間を有効に使うことは重要であり、限られた時間を無駄にしないことの意義もわかる。
だが、あらゆる世の中の事象を「コスパ」「タイパ」の基準だけで判断していいのかという違和感は、筆者のような昭和生まれの人間には非常に強い。最近の風潮はそれが自己目的化する傾向が一段と強まっているようにも見えるからである。一見ムダと思えるコストや時間をかけても、後から意味があったと思える取り組みが実は世の中に多くあることを、一定の人生経験を積んだ人であれば多少なりとも分かるはずである。
映画を例にとると、実際に映画館に足を運んで非日常の空間の中で見るのと、手元のスマホやタブレット、あるいはPCなどで見るのは全く趣が異なる。著者は若者が映画館での視聴経験に抵抗感を示すポイントを指摘しているが、一部を紹介すると、以下のような点を挙げる。
・映画料金を払う余裕がない(他のコトに使いたい)
・おもしろいかわからない映画に時間もお金もかけたくない
・鑑賞中、他のことができないことに対するストレス(マルチタスクで情報を消費したい)
・予期しない感情の起伏を得ることがストレス(だからネタバレを好む)