12月1日付けフィナンシャル・タイムズ紙の社説‘Mexico is wasting its nearshoring opportunity’は、メキシコがニアショアリングの受け皿として投資誘致の大きなチャンスを迎えているにもかかわらず、大統領の不適切な政策でその機会を無駄にしている、と論じている。要旨は次の通り。
メキシコには世界でも有数のビジネスチャンスがある。中国を警戒する米国は、低コストで工場を立地するため自国に近い信頼できる代替地を探している。メキシコには、低コストの労働力と豊かな可能性があり、バイデン政権のグリーン・エネルギー計画の下、特恵貿易アクセスと税制優遇措置もある。これは完璧な組み合わせではないだろうか。
7月、メキシコは中国を抜いて米国への最大の輸出国となり、メキシコへの海外直接投資は、今年1~9月で過去最高の329億ドルに達した。米国国境付近の工業団地は、埋まりつつあり、テスラはメキシコに50億ドルの 巨大工場を建設する計画を発表した。
ただし、米国との国境付近の工業団地は埋まりつつあるが、これは広範なブームというよりは、適切な土地の不足を反映している面もある。テスラはメキシコ工場の建設を延期しているが、この投資は厳密な意味でのニアショアリングというよりも、中国での巨大プラントの代替である。
ニアショアリングは一部で行われているが、政府の適切な政策があれば実現する可能性のあるもののほんの一部に過ぎないという。ここにロペス・オブラドールの存在が大きくクローズアップされる。彼は、ビジネスに対する本能的な疑念と、国家主導型経済への郷愁を持つ左派のナショナリストだ。
その最初の行動の1つが、メキシコの投資促進機関を不必要だとして廃止したことだった。新しい石油精製所に数十億ドルを注ぎ込む一方で、再生可能エネルギーに投資する外国企業を攻撃し、代わりに化石燃料を主原料とする国営発電を推進した。その結果、新しい工場を誘致するのに不可欠なグリーン電力が不足した。
水不足はもうひとつの制約だ。ロペス・オブラドールは、北部の乾燥地帯に14億ドルを投じてほとんど完成した米国のビール工場プロジェクトを、水不足を理由に取り消した。
治安維持、あるいはその欠如もまた、ビジネス上の懸念だ。米国政府は、メキシコの領土の一部は麻薬カルテルに支配されていると述べている。
メキシコは、ニアショアリング・ビジネスを勝ち取る歴史的なチャンスを最大限に生かすべきだ。そのためには、どのような政策が必要かを理解する政府が必要だ。ロペス オブラドールはこのチャンスをほとんど無駄にしている。
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この社説は、米中関係悪化に起因するニアショアリングによるメキシコへの投資誘致の絶好の機会を現大統領の政策が無駄にしており、次期大統領はそのような好機を捉える必要性を理解する人物であるべきだということを示唆している。確かにビジネスの立場からすると、メキシコがこの機会を最大限に生かせば空前の投資ブームを巻き起こして、一気に浮上することも不可能ではないのに、極めて残念だという事なのであろう。
しかし、ニアショアリングが最大限に展開していない理由は、必ずしも大統領だけの問題ではないのではないか。