2024年12月13日(金)

Wedge OPINION

2023年11月11日

『Wedge』2020年9月号特集「宇宙が戦場になる日」に、宇宙に関する記事を加えた特別版を、電子書籍「Wedge Online Premium」として発売しました。今回は、書籍に収容された記事を公開いたします。電子書籍はアマゾン楽天ブックスhontoなどでご購読いただくことができます。

 世界初の月南極付近への着陸からわずか10日後、立て続けに太陽観測衛星を打ち上げるという、驚愕すべきインドの実力に象徴されるように、世界の宇宙開発利用は今まさに大競争時代に突入している。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって、これまで見えなかった分子雲中の生まれたての星を初めて捉えた(NASA/GETTYIMAGES)

 それは、ロケット開発や人工衛星などの宇宙ビジネスをはじめ、米国中心の月探査プログラムで日本も参加を決定した「アルテミス計画」、宇宙の成り立ちなどを解明する宇宙科学、深宇宙(ディープスペース)の惑星探査など、あらゆる分野に広がっている。加えて、多種多様な人工衛星群からなる宇宙システムが地上システムと一体となって運用され、宇宙は安全保障の主要な役割も担っている。

 21世紀はまさしく、「宇宙の世紀」と言って過言ではないだろう。

 そうした中で、日本という国が今後も宇宙先進国の「一極」として世界をリードし、国際的に信頼され、リスペクトされ続けるためには、世界的に見て〝最先端〟で、〝独自性〟(オリジナリティー)ある科学を切り拓いていくことが必要である。

 このことを念頭に、本稿では日本の宇宙政策のあり方を「科学」の視点から捉えなおし、目指すべき方向を考えてみたいと思う。

 具体的内容を提示する前に、まずは、世界初で日本独自の挑戦となった「はやぶさ」の「サンプルリターン技術」について簡単に振り返っておこう。

 「はやぶさ」は、イオンエンジンを使って小惑星まで到達し、サンプル(試料)を採取して持ち帰り、太陽系の起源や進化、生命の起源についての直接的な情報を得るために必要な「サンプルリターン技術」を実証することを目的とした小惑星探査機である。2003年5月に打ち上げられた初代「はやぶさ」はさまざまなトラブルに直面し、満身創痍になりながらも10年6月、小惑星「イトカワ」の表面物質搭載カプセルを持ち帰ることに成功した。

 続けて20年12月には「はやぶさ2」も無事に帰還し、再び日本中が歓喜に湧いたことは記憶に新しい。しかも、初代の「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰ったごくわずかな試料とは異なり、「はやぶさ2」では、小惑星「リュウグウ」から5.4グラムの試料を持ち帰ることに成功した。それによって、たんぱく質の材料となるアミノ酸などの有機物や、鉱物に閉じ込められていた液体の水を検出するなど、数々の成果がもたらされ、公開された論文は300を超えたという。


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