2024年12月9日(月)

Wedge OPINION

2023年11月11日

 他方米国も、16年に「米国版はやぶさ」とも呼ばれる米航空宇宙局(NASA)の探査機「OSIRIS−REx(オサイリス・レックス)」を小惑星「ベンヌ」に向けて打ち上げ、今年9月24日には、その試料を収めたカプセルが無事に地球に帰還した。採取に成功した試料は約250グラムとも推定されており、この大量の試料から得られる成果は、「はやぶさ2」を上回る可能性が十分にある。

 日本が今後も世界に衝撃を与えるほどの計画で宇宙科学を牽引できるかはこれからの取り組みにかかっている。

これからの科学のキーワードは
〝最先端〟かつ〝独自性〟

 宇宙の重要性が叫ばれ、ここ10年で、日本の宇宙関連予算はほぼ倍増し、23年度の総額は、6100億円を超えた。予算を増やすことは宇宙政策を前進させるうえでは欠かせない要素である一方で、手放しに喜べない事情がある。

 なぜなら、現状の日本の宇宙開発利用はあらゆる面──予算規模、技術力、マンパワー、実力など──で、NASAや欧州宇宙機関(ESA)、中国国家航天局(CNSA)、インド宇宙研究機関(ISRO) に比べて劣後しており、これらで彼らに対抗することは困難だからだ。

 では、〝最先端〟かつ〝独自性〟のある科学とはどのようなことか。

〝最先端〟の象徴といえば、21年12月、NASAによって打ち上げられた史上最大の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が挙げられる。これは、1990年に打ち上げられ、地球周回軌道を回りながら、さまざまな宇宙の画像を送り続けた「ハッブル宇宙望遠鏡」の後継機で、米国・欧州・カナダが協力し、1兆円以上かけて開発したものだ。鏡の直径はハッブル望遠鏡の2.4メートルを優に超える6.5メートルで、より遠く、より過去にさかのぼって宇宙を観測できるようになった。昨年7月の初観測以降、JWSTによる観測データは天文学者たちも驚くべき成果をもたらしている。

 JWSTは当初計画から予算が膨れ上がり、米国議会において計画中止が議論されたり、打ち上げも延期されるなどの紆余曲折はあったものの、〝最先端〟プロジェクトにこれだけの巨費を投じることができるのは、米国・欧州・カナダの国力そのものであり、「宇宙で世界をリードする」という国家意思の表れでもある。

 残念ながら、日本ではこうした巨額投資は困難であろう。だが、諦めてはいけない。厳しい状況だからこそ、日本は、最も科学の本質に迫れるテーマに焦点を絞り、〝最先端〟かつ〝独自性〟の科学を追求していくべきである。

 それが何かといえば、宇宙と生命、すなわち、宇宙における地球外生命の探査であると筆者は考えている。

 アストロバイオロジーという学問がある。これは、90年代後半にNASAが命名したもので、「宇宙における生命の起源、進化、伝播、および未来」を探る学問だと定義されている。

 これまでの研究成果から、宇宙に地球外生命が存在する可能性は高い。ただ、それはいわゆるSF映画に登場するような宇宙人や人類と同じような生命体を発見するといった類の話ではない。この分野の研究において重要なことは、この宇宙に存在する生命がどういうもので、さらには、地球の生命と比較し、地球生命の特殊性と生命の普遍性を解明するということだ。

 しかし、これまでの研究には大きな問題がある。系外惑星が見つかった95年以降、宇宙における生命をいかに発見するかは多くの研究者の関心事になった。ただ、遠くの星を直接見て確認することはできない。そのため、生命にとって必要な水、タンパク質、糖などが存在するか、大気に水が含まれているか、酸素があるかなどを確認することで、「地球型」の(水という液体と、代謝をつかさどる、20種類のアミノ酸からなるタンパク質を主とする)生命を探そうとしてきた。


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