聞き手/構成・編集部(大城慶吾、木寅雄斗)
撮影・井上智幸
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瀧口 今回のテーマは「宇宙開発は民主化の時代へ」です。今後の宇宙開発はどのようになるのでしょうか。
中須賀 これまでの宇宙開発は国が中心で、その中で企業を活用してきました。しかし現在は、企業が自らのアイデアと力で宇宙開発を行い、国はそこで得られた成果あるいはサービスを買う、という時代になってきています。
「宇宙旅行元年」といわれた2021年、ブルーオリジンとスペースX、ヴァージン・ギャラクティックの米企業3社が宇宙旅行のビジネス化に成功しました。また、これまで国際宇宙ステーション(ISS)への人の輸送は米航空宇宙局(NASA)が担ってきましたが、スペースXの「クルードラゴン」が行うようになりました。
日本人宇宙飛行士でも野口聡一さんや星出彰彦さんが乗って宇宙に行きましたよね。野口さん曰く、スペースXは「中の構造がこれまでと全然違う。全てタッチパネルで、とても洗練されていて、まさに宇宙旅行の時代にふさわしい乗り物だ」と。
1998年から打ち上げが始まったISSも老朽化が進み、NASAも2030年末には運用を終える計画です。NASAはその後継の宇宙ステーションの建造のため民間企業3社と契約を結び、国だけではなく民間の投資も入れて開発を行っています。新しい宇宙ステーションは25~26年には建造される予定です。
加藤 宇宙船だけではなく宇宙ステーションも、今後は民間らしくなっていくのでしょうか。
中須賀 そうですね。大企業やISSに関わっていた企業、宇宙旅行の企業などが乗り出してきて、民間からの投資が進んでいます。民間向けの、例えば宇宙旅行者が宇宙ステーションに滞在するといったようなビジネスも恐らく想定に入れています。なので、すごい勢いでプロジェクトが進むのです。
瀧口 国から民間へ担い手が移ったことには、どういった背景があるのでしょうか。
中須賀 国だけの予算ではもう賄い切れないという点ですね。米国も宇宙予算では苦しんでいて、各方面から「宇宙ステーションなんかにお金をかけていていいのか?」といった批判があるわけです。逆に、民間は「宇宙に行きたい」という思いが強く、宇宙開発への投資熱がものすごく高いです。民間が国と組んで宇宙開発を行うことによって、企業価値や信頼性が上がります。ウィンウィンになるような宇宙開発を米国は目指している。その点、日本はまだまだ政府中心ですね。
加藤 今後の宇宙開発は完全に民間にシフトしていくのですかね。
中須賀 多分そうなると思います。宇宙ステーションで何か実験をしたいというとき、その期間や場所、往来のツールを政府が買うという世界になっていくのではないかと思います。
加藤 電話や郵便など、国営だったものが民営化された分野は「国の雰囲気」が残っていたりしますが、宇宙もそうなるのでしょうか。
中須賀 それは残ると思います。民間側もそれを残すことによって、安心感を提供できますから。スペースXの「クルードラゴン」も、何度も宇宙を往来して、その積み重ねで安心感を醸成しようとしています。
江﨑 「民主化」の背景には、技術の進歩により小さな投資額で済むようになった点がありますよね。テクノロジーは10年もあれば、パワー強化や小型化が1000倍は進みます。コンピューターはその典型ですね。なので、昔の宇宙開発は規模が大きくなりすぎて、国がやるしかなかった。
ただ民間が主役になっても、企業は自身の利益を追求しがちですから、協力しつつ競争しながらシステムを向上させる構造をつくるときには、国のような中立性とリーダーシップを持った「芯」がなければできないですね。
戸谷 天文学の立場からも、民主化は非常に素晴らしいことです。ハッブル宇宙望遠鏡や、日本だとすばる望遠鏡のように、大きな望遠鏡を造って遠くを見る、というのがここ数十年の流れでした。その行き着く先は、望遠鏡が巨大化して、一国では造れなくなることです。今、NASAが計画し約20年後の打ち上げが予定されている「大型紫外可視近赤外線宇宙望遠鏡(LUVOIR)」は、私たちが住む太陽系の外の、遠くの地球型惑星から生命の痕跡を見つけようという究極の望遠鏡ですが、初期費用で1兆円が必要と試算されています。それぐらいのクラスでは、当然、世界で1つしか造れない。