加藤 民間からしてビジネスになると思われれば、民主化していく可能性はありますね。
江﨑 かつて「SETI@home」というプロジェクトがありました。地球外知的生命体の証拠を見つけるために、天文台の膨大な観測データを小分けにして、一般の人に自分のコンピューターで分析してもらうと。これはある意味、民主化です。
もうひとつ面白いのは、地球上にいくつも小さな望遠鏡を置いて、それぞれ情報を全て統合すると、大きな口径の望遠鏡になる、という試みがありました。それができると、例えば世界中の1000人が持っている小さな望遠鏡を集めると、大きな口径の望遠鏡の代わりになるかもしれない、と。
加藤 分散システム。機械学習みたいですね。
戸谷 ブラックホールが世界で初めて撮影された際、あれは電波による観測ですが、こうした分散型の方法が用いられましたね。大きな望遠鏡を1つ造るという流れだと、いずれ科学は行き詰まるのです。いろいろな人がいろいろなアイデアで実践し、新しい科学を生み出す。それが科学の多様性だと思っていて、そういった意味で、宇宙開発が民主化しているというのは、非常によい兆候だと思います。
宇宙エレベーターが
100年後には実現?
瀧口 宇宙エレベーターを造ろうとしている企業もありますよね。
中須賀 建設会社は意外と興味を持っています。静止軌道に重心があるものは地球の自転と同じように回るから、それをひもでつなげばエレベーターのようになる、というのが宇宙エレベーターです。そうすると、ロケットの燃料なしに、電気だけで宇宙に運べる。ただ、やはりまだまだ技術的な課題が多くあるので、今すぐは無理でしょうが、100年後にはできているだろうなと思います。
加藤 宇宙エレベーターは、どういった場所に造られるのでしょうか。
中須賀 基本的には地球の自転と一緒に動かなければいけないので、静止軌道の下、つまり赤道上のどこかです。アーサー・C・クラークというSF作家の、宇宙エレベーター建設をテーマにした小説『楽園の泉』(早川書房)の中では、スリランカがモデルになっていました。あのあたりは軌道上の安定点で、すごく条件がいい。彼は軌道論のこともよく分かっているなと思いました。
瀧口 科学に基づいたSFなのですね。
中須賀 もちろん、実現にはまだ課題があります。地上と宇宙を結ぶひもは、自重で切れるようでは駄目なので、自重よりも強い強度を持ったカーボンナノチューブで造ることになります。ただ、今のカーボンナノチューブはまだ非常に短いものしか造れないので、3万6000㌔メートルの長さをどうするのか。また、昇っていくエレベーターの箱に、どうやってエネルギーを供給するのか。台風が来たらどうするのか。ひもに飛行機がぶつからないようにするにはどうするのか。デブリが当たったら切れてしまうのではないか。こういった問題を解決しないといけない。
ただこういう問題も、コンセプトができればやがては解決されるのですよね。だから、100年後には多分できているだろうと思います。
戸谷 地上から天文観測をしようとすると、どうしても大気が邪魔になってしまう。基本的には人工衛星を打ち上げるのですけど、人工衛星はどうしても費用が高く、手間が掛かる。宇宙エレベーターによって、望遠鏡を格安で宇宙に上げて、普通の大学の小さな研究室でも格安で観測できるようになると、また新しい天文学が生まれるような気がします。