肩の力を抜いた「雑談」から、イノベーションの種は生まれ出る。
日本の科学や技術を牽引する「天才」たちが、未来の社会はどうなっているのか、縦横無尽に語り尽くす。
聞き手/構成・編集部(大城慶吾、木寅雄斗)
撮影・さとうわたる
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(パート1はこちら)
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瀧口 「10年後、スマホの充電は不要になる」。ものすごく便利な感じがしますが、これはどういうことなのでしょうか。
川原 人々が機能を求めるたびに、スマホの消費電力がどんどん上がってきています。20年ぐらい前の携帯電話の機能は音声の通話だけだったので、1週間充電しなくてもよかったんです。それが今のスマホは、20年で(機能は)進化しているはずなのに、毎日充電しないと使えないという〝逆行〟が起きている。その全ての原因は、やはり熱や消費電力です。そこで盛んに研究されているのが、電波を使ってIoTデバイスやスマホなどを充電しようという「無線給電」です。
加藤 そもそもケーブルを差さなくていい、という世界ですよね。
川原 既に今もスマホには無線給電用のコイルが中に入っていて、充電パッドの上に置いておくと充電はできます。ですが、使うと分かるんですけど、ちょっとずれたり、何か異物が挟まっていたりすると、もうそれで充電できないんです。
江﨑 将来的には、最先端のレーダーの技術を転用すると、動き回っているものでも追跡しながら給電する、といったことも可能になります。
黒田 ポケットの中に入れて歩きながらでも充電されている、という状態になっていくわけですよね。
瀧口 それはどこのエネルギーを使って充電されるのでしょうか?
川原 部屋の中にアンテナを置いて、壁のコンセントから給電して、アンテナから電波が出るというような形になります。
もう一つ私がやっているのが「エナジー・ハーベスティング」です。熱や太陽光、あるいは飛んでいる電波をつかまえて、デバイスを動かそうという研究をしていました。
瀧口 そんな魔法みたいなことができるんですか。
川原 私が実験で使ったのは、テレビの電波ですね。東京タワーから出ている電波をつかまえて、それを電池の代わりの直流に変換して使うというものです。
江﨑 日なたに手を置いておくと温かくなるのと同じです。電波も光と同じものなので、ずっと受けていると温かくなる、つまりエネルギーを吸収するんですよ。
加藤 あれで何ワットぐらいですか。
川原 0.1㍉ワットですね。
加藤 すごいですね。0.1㍉ワットって、実際にどういうことができるのでしょう。通信はできるんですかね。
川原 たとえば気温計の場合、温度は1分や2分では変わらないので、100分の1秒ぐらい起き上がって温度を測って、それを基地局に無線で報告して、その後また5分充電する。そういうことをやると、平均して0.1㍉ワットぐらいで結構いろいろなことができるんですね。
江﨑 放送は電波の上に、つまりエネルギーの上に情報が乗っているんです。電波をたくさん出していますが、その割には視聴している人は少ないですよね。その無駄になってしまうエネルギーを上手にありがたくいただいて、それをためると、今度は自分が発信できるようにできますよ、ということを川原先生は研究されているんですね。
黒田 再利用ですね。
川原 「あなたはスカイツリーや東京タワーから電気を盗んでいるのか」と最初は結構言われましたね(笑)。壁に当たったら熱に変わってしまい、あるいは宇宙に放射されてしまうエネルギーを、ありがたく使わせていただいています。