2024年12月22日(日)

天才たちの雑談

2022年8月18日

壁に付箋を貼って「ブレスト」をしたところで、目新しい「アイデア」は出ない。
肩の力を抜いた「雑談」から、イノベーションの種は生まれ出る。
日本の科学や技術を牽引する「天才」たちが、未来の社会はどうなっているのか、縦横無尽に語り尽くす。

聞き手/構成・編集部(大城慶吾、木寅雄斗) 
撮影・さとうわたる

雑談の動画は東大TVのYouTubeチャンネルからご覧いただけます。
(パート1はこちら
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瀧口 「10年後、スマホの充電は不要になる」。ものすごく便利な感じがしますが、これはどういうことなのでしょうか。

瀧口友里奈 Yurina Takiguchi
経済キャスター
東京大学工学部 アドバイザリーボード・メンバー
東大文学部行動文化学科卒業。経済ニュース専門チャンネル『日経CNBC』キャスター、雑誌『Forbes JAPAN』エディター兼コミュニケーションディレクターなどを務める。

川原 人々が機能を求めるたびに、スマホの消費電力がどんどん上がってきています。20年ぐらい前の携帯電話の機能は音声の通話だけだったので、1週間充電しなくてもよかったんです。それが今のスマホは、20年で(機能は)進化しているはずなのに、毎日充電しないと使えないという〝逆行〟が起きている。その全ての原因は、やはり熱や消費電力です。そこで盛んに研究されているのが、電波を使ってIoTデバイスやスマホなどを充電しようという「無線給電」です。

川原圭博 Yoshihiro Kawahara
東京大学大学院 工学系研究科 教授
東大大学院情報理工学系研究科博士課程修了。米ジョージア工科大学客員研究員などを経て2019年より現職。東大インクルーシブ工学連携研究機構長などを兼任。

加藤 そもそもケーブルを差さなくていい、という世界ですよね。

加藤真平 Shinpei Kato
東京大学大学院情報理工学系 研究科 准教授
慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。博士(工学)。米カーネギーメロン大学などで研究員を務め、2016年より現職。ティアフォー創業者兼最高技術責任者(CTO)。

川原 既に今もスマホには無線給電用のコイルが中に入っていて、充電パッドの上に置いておくと充電はできます。ですが、使うと分かるんですけど、ちょっとずれたり、何か異物が挟まっていたりすると、もうそれで充電できないんです。

江﨑 将来的には、最先端のレーダーの技術を転用すると、動き回っているものでも追跡しながら給電する、といったことも可能になります。

江﨑 浩 Hiroshi Esaki
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授
九州大学工学部修士課程修了。東芝、米コロンビア大学客員研究員、東大大型計算機センター助教授などを経て現職。デジタル庁Chief Architectなども兼任。

黒田 ポケットの中に入れて歩きながらでも充電されている、という状態になっていくわけですよね。

黒田忠広 Tadahiro Kuroda
東京大学大学院工学系研究科 教授
東京大学工学部電気工学科卒業。工学博士。東芝入社。慶應義塾大学教授、米カリフォルニア大学バークレイ校MacKay Professorなどを経て、2019年より現職。

瀧口 それはどこのエネルギーを使って充電されるのでしょうか?

川原 部屋の中にアンテナを置いて、壁のコンセントから給電して、アンテナから電波が出るというような形になります。

 もう一つ私がやっているのが「エナジー・ハーベスティング」です。熱や太陽光、あるいは飛んでいる電波をつかまえて、デバイスを動かそうという研究をしていました。

瀧口 そんな魔法みたいなことができるんですか。

川原 私が実験で使ったのは、テレビの電波ですね。東京タワーから出ている電波をつかまえて、それを電池の代わりの直流に変換して使うというものです。

江﨑 日なたに手を置いておくと温かくなるのと同じです。電波も光と同じものなので、ずっと受けていると温かくなる、つまりエネルギーを吸収するんですよ。

加藤 あれで何ワットぐらいですか。

川原 0.1㍉ワットですね。

加藤 すごいですね。0.1㍉ワットって、実際にどういうことができるのでしょう。通信はできるんですかね。

川原 たとえば気温計の場合、温度は1分や2分では変わらないので、100分の1秒ぐらい起き上がって温度を測って、それを基地局に無線で報告して、その後また5分充電する。そういうことをやると、平均して0.1㍉ワットぐらいで結構いろいろなことができるんですね。

江﨑 放送は電波の上に、つまりエネルギーの上に情報が乗っているんです。電波をたくさん出していますが、その割には視聴している人は少ないですよね。その無駄になってしまうエネルギーを上手にありがたくいただいて、それをためると、今度は自分が発信できるようにできますよ、ということを川原先生は研究されているんですね。

黒田 再利用ですね。

川原 「あなたはスカイツリーや東京タワーから電気を盗んでいるのか」と最初は結構言われましたね(笑)。壁に当たったら熱に変わってしまい、あるいは宇宙に放射されてしまうエネルギーを、ありがたく使わせていただいています。


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