2024年5月22日(水)

Wedge OPINION

2023年11月11日

 だが、地球とそれ以外の惑星では環境が全く異なっているため、仮にそこに生命の存在が発見されたとしても、「地球型」である必然性は全くない。

 日本が〝最先端〟かつ〝独自性〟ある科学を追求するのであれば、それに固執することなく、もっと多様な環境で、どのような生命が存在し、その起源になるようなものが存在しうるのか、といった本質的な観点でブレークスルーにつながる科学を追求すべきであろう。

 また、先述した「サンプルリターン」は、帰還までに年月がかかってしまうため、これからは採取した「その場」で分析し、地球にデータ伝送できるような技術開発も必要である。もちろん、簡単なことではないが、限られた予算や人員の中で〝最先端〟かつ〝独自性〟ある科学を追求するためには、世界の研究者と同じ土俵で勝負するのではなく、日本のオリジナリティーを追求し、世界に存在感を発揮していくことが欠かせない。

最大の難問にして最重要課題
科学を追求することの意義

 宇宙と生命──。これは古代ギリシャやローマ時代から、人類にとって究極の課題であった。

 21世紀、宇宙における生命は、単なるおとぎ話ではなく、宇宙物理学から天文学、惑星科学、生命科学に至るまで、あらゆる分野の最先端の研究テーマである。

 今年3月に逝去され、長年、政府の宇宙政策委員会委員長代理を務めた千葉工業大学前学長の松井孝典氏は、日本の宇宙政策のあり方や宇宙科学の意義を問い続けた人だった。松井氏はかつて筆者にこう述べたことがある。

「欧米がやっているから日本もやるという受動的な姿勢であってはならない。日本は、日本にしかできないことを追求することで、世界から必要とされ、信頼される存在にならなければならない」

 正鵠を射た考えである。

 日本の研究は近年、限られた予算の範囲内で、近視眼的に「すぐに成果が得られる」ことばかりを優先してきた。結果として、宇宙開発のみならずあらゆる分野で研究力の低下を招いた。まさに、「貧すれば鈍する」である。

 科学者でない一国民にとっては、地球外生命を科学的に解明することの意義や重要性は捉えにくいかもしれない。特にそれが巨額の予算を必要とする場合はことさらであろう。だが、そもそも科学とは、すぐに「役に立つか、立たないか」の二項対立で捉えるべきものではないと筆者は考える。その国の文化的な尺度そのものだと言っていい。

 このままでは、日本は、取り返しのつかない事態になる。だからこそ、たとえ苦しい道であったとしても、宇宙分野において〝最先端〟かつ〝独自性〟ある科学を切り拓くという明確な国家意思を持ち、同時にそれらを支える科学力、技術力を持ち続けることで、21世紀の日本の存立を確かなものにしていくべきである。

 宇宙先進国の「一極」として、これからも日本が世界に存在感を発揮できるかどうか、今まさに、分水嶺に立たされている。(聞き手/構成・編集部 大城慶吾、梶田美有)

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Wedge 2023年10月号より
日本人なら知っておきたい ASEAN NOW
日本人なら知っておきたい ASEAN NOW

今年は、日本ASEAN友好協力50周年の節目の年である。日・ASEAN関係は今、リージョナルパートナーからグローバルパートナーへと変貌しつつある。しかも、起業やデジタル化といった側面では、日本を大きくリードしているといえ、彼らの〝進取〟と〝積極性〟ある姿勢から学ぶべき点は多い。一方で、政治の安定、民主化などでは足踏みが続く。多様なASEANを理解するための「最初の扉」を開けるべく、各分野に精通した8人に論じてもらう。


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