各候補のうち、民進党の頼候補は、理路整然で分かりやすい語り口で好評。現職副総統であり、ベテラン政治家としての風格を感じさせた。前台北市長の民衆党の柯文哲候補は、ユーチューバーとしても名高い。話し言葉主体の分かりやすい言葉遣いと論旨の明快さが視聴者に好感を与えた。
これに対し、現職の新北市長で、元警察官僚の国民党の侯友宜候補は、他の二候補に比べ弁舌が巧みでないことや、論理の弱さが目立った。台湾では政治家の評価で、弁論の巧拙は決定的に重要とされる。侯氏の演説下手は有名で、国民党の支持者はテレビ討論会でさらに失望したかもしれない。
中台関係の討論は低調
テレビ討論で3候補は、概ね従来の主張を繰り返し、発言内容は予想の範囲にとどまった。焦点の両岸(中台)関係も、頼候補が現状維持、他の二候補が中国のとの交流促進を訴えるなど従来の主張を繰り返した。野党の2候補は中台問題で深入りを避けたとみられる。
頼候補は、現在の蔡英文総統の現状維持路線の踏襲を強調。侯友宜候補は、従来通り「92コンセンサス」を前提とした中国との対話再開を主張。中台が1992年に口頭で「一つの中国」を認めたものとされているが、頼候補から「2024年にまだ前時代の政策を唱えるのか」との批判を受けた。柯文哲候補は「両岸は一家」を唱え対話の必要性を強調したが、具体策には触れなかった。
習近平政権下の中国は、香港民主派への弾圧や余りに過酷な新型コロナウイルス対策、武力による台湾へ執拗な威嚇により、多くの台湾住民から忌避されている。
ネットメディア、美麗島電子報の23年12月の世論調査結果によると、中国共産党をマイナス評価(良くない、不信、不満、嫌い)は69.7%で、プラス評価(良い、信頼、満足、好き)の8.3%を大きく上回った。
中国との交流再開を主張する国民党と民衆党は、親中派とみられることにかなり神経質となっている。親中派のレッテル貼りは、中傷を意味する中国語の「黒く塗る」をもじり「赤く塗る」というが、野党2党は互いに赤を塗り合う内ゲバを演じている。
柯文哲候補が、国民党が中国から支援を受けている可能性を示唆したところ、副総統候補で民営放送局「中国広播電台」会長の趙少康氏が反発。「人を赤く塗って恥ずかしくないか。自分も塗られて怒ってたのに」とやり返した。
趙氏は実際はかなりの親中派だが、柯氏から何度も「急進(中台)統一派」呼ばわりされて頭に来ていた。柯文哲候補も親中派とみられている。
二大政党批判票狙う柯氏
柯文哲候補は、二大政党批判票の取り込みを図っているとみられ、テレビ討論会でも冒頭で民進党と国民党の同時打倒を訴えた。
1996年以降、7回行われた総統選挙でいつも、民進党か国民党政権の打倒の責任が語られてきたと指摘。「同胞のみなさん、今回初めて両党同時に引きずり下ろす機会がやってきた。過去30年間、民進党と民進党はイデオロギーを操り、社会と国家を分裂させてきた。これが皆さんの望む政治か」と訴えた。
二大政党攻撃は既得権益層への批判でもあり、台湾人の間で一定の説得力を持つ。8年間続く民進党政権に飽きた有権者は少なくない。各世論調査で柯文哲候補はいつも3位だが、総統選での善戦を予想する見方もある。