2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2024年1月10日

 ネタニヤフ首相はハマスの奇襲攻撃を許したことで、ガザ戦争が終われば、責任を問われて辞任に追い込まれるのは必至。首相に留まることを支持する国民はわずか15%(世論調査)しかいない。このため「政治生命を維持するには戦線を拡大して戦い続ける以外にない」(中東専門家)という状況だ。

米国を引きずり込む〝裏戦略〟

 「絶体絶命の窮地に立たされているネタニヤフにとって、戦線拡大は首相職に留まる方法であり、及び腰のバイデンを紛争に引きずり込む〝裏戦略〟だ」(ベイルート筋)。バイデン政権はイスラエルを支持しながらも、直接紛争に巻き込まれることを避けてきた。ブリンケン国務長官が現在、中東諸国を歴訪しているのもそうした試みの一環だ。

 同筋によると、イスラエルがヒズボラと本格的に戦端を開いた場合、ヒズボラを育成してきたイランが直接的に参戦することはない見通しだ。しかし、イランはその代わり、ヒズボラ支援のためシリアやイラクの親イラン民兵軍団をレバノンに大挙派遣し、大規模な戦争に発展する可能性がある。

 「この状況こそネタニヤフが望むものだ。そうなれば、米国はイスラエルを軍事的に助けるしかない。バイデンにしても、大統領選挙戦で弱腰と批判されたくないからだ。米国を引き込めれば、イランを直接叩くチャンスが生まれるかもしれない。ネタニヤフの責任問題は吹っ飛び、権力の座に留まることが可能になる」というのだ。

 米紙によると、こうしたシナリオを懸念するバイデン政権はブリンケン国務長官に先立ってこのほど、大統領特使をイスラエルに急派し、ネタニヤフ首相に自制を求めている。だが、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍のスタブリデス元最高司令官が「戦線拡大の可能性はこれまでの15%から30%に高まった」と指摘するように、イスラエルとヒズボラの衝突は現実味を帯びている。

 イスラエル軍は2006年、ヒズボラと大規模衝突し、レバノン側が1000人以上、イスラエル兵ら約160が死亡した。今度戦争になれば、レバノン側の死傷者が50万人にもおよぶとの試算もある。しかしヒズボラは当時と比べて、戦闘員数も装備も格段に増強しており、イスラエル軍機が地対空ミサイルの犠牲になるなどイスラエル側の損害も甚大なものになるだろう。

パレスチナ人を他国に移住させよ

 緊張が高まる中で、ネタニヤフ政権内の対立も目立ってきた。極右政党出身のベングビール国家治安相とスモトリッチ財務相が発火点だ。

 2人は戦後について「ガザのパレスチナ人を他国に移住させ、ユダヤ人の入植を復活させる」と主張し、米国務省から強く批判された。首相もガザ占領を表明しており、この意を汲んでの発言だとの見方も強い。だが、ガンツ元国防相らは反対だ。


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