航空管制官のヴィジランス
航空管制官の場合も、順調に事が運んでいるときは、注意力の浪費を避けるべく、リラックスしているはずである。しかし、リスクを感知した時は、それが微細でも、一気に緊張が高まる。まして、重大な危険を察知すれば、緊張は極限に達する。
緊張の強弱のなかで、ヴィジランスをどう維持するか。(1) 作業時間の多くを占める単調な時間をどう耐えるか、(2) 間欠的に発生する心身の動揺をどう制御するか,、以上2つの対極的な課題を抱えている。後者における対応に目が行きがちだが、実際には(2)に入る前の(1)のコントロールも軽視できない。
単調な時間帯に、いかにしてヴィジランス水準を落としすぎないか。(1)は、(2)のときに必要な緊張の余力をためる時間帯である。しかし、リラックスの程度も度が過ぎれば眠くなる。リラックスしなければ、早晩力尽きる。緊張-弛緩バランスを、至適レベルに維持することは容易ではない。
次の瞬間、絶対に失敗してはならない重大な判断のタイミングが来るかもしれない。しかし、来ない可能性が高い。かつ、そのための準備時間は、眠気をすら誘ってくる時間帯である。
眠気は少しあるだけでも危険察知力が低下し、当事者の心理を楽観バイアスへと傾ける。「まあ、大丈夫だろう」といった油断へと誘い込むのである。
航空管制官のシフト勤務
航空管制官の勤務時間は、「原則として4週間につき1週間当たり38時間45分となるように弾力的に勤務時間を設定」(勤務時間法第7条等、人事院規則15―14(第5条等))とされている。そのうえ、管制業務中も、30ないし60分ごとに休憩時間が与えられるといわれている。
労働条件は恵まれているように見えるが、問題は交代勤務である。地方の小空港はともかく、成田、福岡は、早朝から深夜まで、新千歳、羽田、中部、関西、北九州、那覇にいたっては、24時間運用している。
それぞれの空港に配属される航空管制官も、当然ながら、夜勤がある。早番(7:00~15:15)、遅番(13:00~21:15)、夜勤(15:45~8:45)、休日といったサイクルである。
交代勤務の際の眠り方(私案)
交代勤務者の眠り方については、私ども医療関係者は夜勤のある看護師、当直のある医師などに関して、一定のデータがある。また、私ども精神科医には、睡眠指導を行ってきた経験がある。以下に、管制官のシフトを考慮に入れた眠り方私案を示す。
まず、ヒトの睡眠については、「夜長く眠り、午後短く眠る」のが原則である。ヒトは、他の生物と同じく、この星の自転周期がプログラムされており、睡眠も毎日同じ時刻にとることが望ましい。交代勤務者はこれができないわけであるが、その場合も、長いほうの夜の睡眠のずれを最小限にとどめたい。