2024年4月30日(火)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年10月5日

 記事を読めば、思わず目を疑ってしまう。これでは死ぬ。霞ヶ関では〝殉職〟があり得る。

 NHK NEWS WEB「霞ヶ関のリアル」では、激務と格闘する入職5年目の田中勇樹さん(仮名)という人が登場する。彼の自己申告によれば、午前2時半に就寝し、午前6時には起床するという。わずか、3時間半の睡眠である。

霞ヶ関では、昼夜を問わず勤務が強いられているようだ(y-studio/gettyimages)

 一般に睡眠に関する自己申告には誇張が混じる。最も寝不足だった日のことを、「毎日がこんな状態」と言いがちである。しかし、もし、田中さんの申告が正確で、勤務日は例外なく3時間半睡眠だとすれば、致死的な事態もあり得る。

 寝不足は、心筋梗塞、脳卒中、うつ病・自殺等のリスクを高める。自治医科大学のデータ(J Epidemiol.2004 Jul;14(4):124-8)によれば、6時間未満だと、7~8時間の人に比して、死亡率が2.4倍高くなるという。田中さんは6時間どころか、3.5時間なので、対象者が少なすぎてデータが集まらないから、研究にならないが、その死亡リスクはとんでもないことになっているはずである。

 小論では「事実ならば、○○のはずである」といった仮定法で語らざるを得ない。その理由は、官僚たちの睡眠実態についての正確なデータがないからである。まさか、田中さん並みの3時間半睡眠を、すべての若手官僚が、一年中強いられているわけではなかろう。人にもよるし、時期にもよるはずである。

 しかし、もしかりに、霞ヶ関の若手が押しなべてこのような生活を強いられているとすれば、次々に殉職者が出て不思議はない。中央官庁とは、3時間半睡眠でどの程度人が死ぬかの実証実験を、優秀な頭脳の持ち主を対象に行っているところなのか。

 エリート官僚たちが睡眠剥奪に死の危険があることを知らないはずはない。それなのに気づいたときには、実験動物にさせられているのであろう。これは、もはや単なる健康問題ではない。重大な人権問題である。

 田中さんらには申し上げたい。「こんな生活を続けていると、死にますよ。早めに医師に相談してほしい」と。


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