2024年11月23日(土)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年10月5日

診断書で「ドクターストップ!」

 さて、もし、私が精神科医として田中さんのような霞ヶ関人を診ることになったらどうするか。

 まずは、初診時に診断書を書いて介入する。「自宅療養が必要」としたいところだが、仕事熱心な若手官僚なら、休職は拒否するだろう。

 その場合、最低でも診断書に「現在甚だしい心身疲弊状態にあり、重篤な健康被害のリスクが差し迫っている。就業継続は時間外労働を働き方改革関連法に準じた月45時間未満とすることを条件に可能とする」といった付記を記す。

図1.時間外労働に注意喚起する診断書(これはあくまでサンプルであり、特定個人に直ちに適用できるわけではない) 写真を拡大

 「準じた」とせざるを得ないのは、同法が公務員には適用されないからである。そこで、「月45時間を超えると、脳・心臓疾患等が発生した際に発症との関連が強まる」と付言し、健康被害のリスクが差し迫っていることに注意喚起する。

命がけで働きたい人のために

 それでも「診断書なんていらない。仕事は減らしたくない。国民のために死ぬ覚悟はできている」と言ったら、どうするか。生命を賭して戦うエリートのために、精神科医としてどんな助言ができるだろうか。

 その場合、その人の仕事のスケジュールを尊重しつつ、突然死しないよう睡眠時間の確保のために、できることは何であれ考えてみたい。

 田中さんの例のように、7時30分に仕事を幹部レクから始め、法改正の審査・準備、国会対応、議員レク、会議資料・資料作成、国会答弁作成、幹部と協議・決済、他省庁との調整等を行って、午前1時30分に仕事が終わるというスケジュールは、まさに殺人的である。しかし、これすら国会議員の都合で変更の余地がないのかもしれない。

 それなら、国会会期中の平日は泊まり込むことをお勧めする。連日にわたる3時間半睡眠だと、本当に死んでしまう。


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