2024年5月19日(日)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2024年1月16日

 まず、夜勤明けの日、休日、日勤(航空管制官の場合、早番・遅番)と続く数日間の間に、夜間睡眠を十分にとって、ある程度余力をもって夜勤に臨む。俗に貯金はできないとされる睡眠だが、けっして寝不足の借金を作って夜勤に入るようなことはしてはならない。

 夜勤の日に長い夜間睡眠をとれないことは明らかなので、その分、夜勤に先立って、夜の睡眠を長くとり、疲労回復を図っておく。就床・起床のタイミング、入眠・覚醒のタイミングのずれを小さくしておきたい。航空管制官の勤務スケジュールを考慮すれば、早番に合わせるのが合理的で、したがって、「22時就床、5時起床」などを定時とし、そこから前後にプラスアルファさせる。

 早番が終了した日も、早めに就床することになるが、そうするとおそらく翌朝5時には目が覚めてしまうであろう。致し方ない。ただ、その場合、仕事が始まる時間帯まで間があり、早起きの影響で眠気が出る時間帯と業務とが重なるリスクがある。昼食を午前の遅い時刻にとり、その後、仮眠室で15~30分程度の仮眠をとってから仕事に入るのもいいであろう。

 遅番の夜は、就床が遅れるであろう。その分、起床も遅れるが、それでも2日前までは5時に起床していたので、7時ごろにはもう目が覚めてしまうかもしれない。その場合、午前中は起きておいて、昼食後に長めの仮眠をとってから、出勤すればいいものと思われる。

 夜勤中は、制度上許される仮眠を、とれるならかならずとる。仮眠は、その長短に関わらず、夜勤中の航空管制官のヴィジランスを改善させる(Signal et al., 2009)。

 夜勤が明けた日は、少なくとも午前中は眠気に耐えて起きておいたほうがいい。午後の昼寝は普段より長くなるが、日没前に起きて、屋外を散歩する。その後、早め夕食、早め就床として、翌朝は5~7時頃に起きて、翌々日の5時起床に合わせていくべきであろう。

戦略としての昼寝を

 航空管制官やパイロットの健康管理についての文献をみると、「戦略」(strategy)という攻撃的な用語と、「昼寝」(napping)という平和的な言葉とが同居している。表現として奇異だが、「戦略的に昼寝をとる」という発想を持つべきであろう。眠気が許されないからこそ、眠れるときに「戦略」的に眠るのである。

 休憩時間も、「戦略」的に考えたい。眠ければ目をつぶって、わずか10分でもいいから仮眠をとるべきであろう。眠れなくても、閉眼するだけで休息効果はある。ヴィジランスを高めるべきときがかならず来るのだから、落としていい時間帯は積極的に落としたい。

 眠気がなければ、ウォーキング・ストレッチ等の身体活動を行いたい。活動的な業務に従事している人にとって、休むとは座ることだが、座位業務に従事している人にとって、休むとは立って歩くことである。座位業務者にとって、座位のままの姿勢では休息にならない。

 もっとも、以上は一般論である。シフト勤務の状況、個体側要因(年齢、身長・体重、運動習慣、飲酒習慣等)を考慮して、個人に合わせて「戦略的に睡眠をとる」という考え方が必要であろう。

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