前述の通り、コンテンツの生態系という言葉には、ユーザーが作品を購入することで、利益がコンテンツ制作者側に適切に分配され、新たな作品が産み出される循環が成立しているという意味が含まれています。その循環が続いていくかどうかがポイントです。一時的に成立していても、継続性が担保されない仕組みは「生態系」とは呼べません。
例えば、登録者が100万人を突破したNTTドコモの音楽ラジオサービスdヒッツです。携帯電話の新規契約や機種変更時に、ドコモショップなどで、通信契約とセットに割引で契約をされます。「こちらの方がお得だから付けておきませんか?」と店員に言われて加入した経験がある方は多いのではないでしょうか。□にチェックさせるというやり方から業界では「レ点営業」と呼ばれているそうです。
dヒッツは、このレ点営業で登録ユーザーを増やしています。問題は、ユーザーの利用率(アクティブ率)が著しく低いといわれていることです。正確なデータは発表されていませんが、月に1回以上使用するユーザーが1割前後であると言われています。
通信会社は、大きな社会的な責任を負った企業です。アクティブ率が低いサービスは「レ点営業」から外すようなルールは必要ではないでしょうか? 再生されなければ、回線も使われずに利益率が高いから良いと思っているとしたら、大きな間違いです。個人的には「dヒッツ」の企画編成は良くできていると思うのですが、ユーザーに、その意図が伝わっていないようです。今の状態は「コンテンツの生態系」として成立していません。最近は、積極的にTVCMも行っているようなので、変化に注目したいです。
日本でも育ちつつある秀逸なコンテンツ生態系
他には、利用者1億人を超える米国の無料ネットラジオサービス・PANDORAのケースも、生態系という観点から見ると疑問が生じます。
米国はミレニアム法で、インターネットラジオのルールが定められています。収入の25%をレコード会社側に還元するのが基本ですが、同時に「pay par play」と呼ばれる再生に当たっての最低保障金額が設定されています。PANRODAは、ユーザーに聞かれ過ぎたが故にこの最低保証金額が機能することが多く、結果としてレーベル側への支払が売上の5割を超えることもあり赤字要因になっているとPANDORA側が主張しているのです。
PANDORAはニューヨーク証券取引所で「P」で表れさるほど、資本市場からは高い評価を得ている「一文字」企業になっています。時価総額も2000億円を超えていますので、営業活動が赤字であったとしても、権利者への支払は問題なく行われています。つまり事業自体は赤字だけど、資本市場で投資家から集めた資金によって音楽権利者に支払をしている訳です。この事象は、音楽プロデューサーとして個人的には痛快に感じるのですが(笑)、歪な状態であり継続可能な仕組みとは呼べません。