2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2024年2月20日

 第二に、金融界への影響がある。

 トランプ氏が当初から掲げてきた〝アメリカ・ファースト〟スローガンに基づく破天荒な諸政策が財政悪化を招き、結果的に世界通貨としてのドル信用下落と世界金融市場の混乱を引き起こすことが懸念されている。

 金融界の一部には、「これまでにも世界各国の通貨・金融政策はドル相場に依存してきただけに、今後もその優位性が揺らぐことはない」との楽観論がある一方、米大手企業の投資顧問(複数)は、英国のリズ・トラス前首相が去る22年の就任と同時に、国家財政バランスを無視したまま大規模減税方針を打ち出したことで与野党からの猛反発を受け、わずか数カ月で辞任に追い込まれた事例に言及、「トランプがまた、とんでもない政策を打ち出すことになれば、米国の政財界は大混乱になる」と警告している。

 第三に、移民政策がある。

 トランプ氏は、来年1月就任と同時に、滞在許可のない数百万人にも達する中南米諸国からの労働者について、国境警備隊や各州警察を動員し「全員国外退去」措置を打ち出すことを公言している。

 もし現実に、こうした強硬策が実施されれば、建設労働者、ホテル・レストラン従業員、農場季節労働者、家政婦、タクシー・トラック運転手、臨時介護士、ベビー・シッターなど、米国経済を底辺で支える多くの就労者がいなくなり、企業の経営自体が成り立たなくなるとの危機感が多くの大小企業の経営者の間で共有されている。

 第四点として、外交政策の混乱から世界情勢不安定化を招く恐れがある。

 財界は内外問わず、政情不安が景気悪化に直結することを肌で感じており、トランプ前政権当時から、その外交・安全保障政策に振り回されてきた。

 とくに、問題視しているのが、トランプ氏自身が示唆している「北大西洋条約機構(NATO)からの離脱」方針だ。それのみか、かつて大統領在任中、NATO首脳会議での演説で、十分な防衛分担に応じないNATO加盟国への侵攻をプーチン・ロシア大統領に促したことまで明らかになっている。米欧関係を根本から揺るがす一大事であり、混乱は欧州のみにとどまらず、さらに日韓などアジア諸国にも波及する恐れがある。

今は隠す「批判の声」

 ただその一方で、米大手企業の経営者たちは、今の時点で、トランプ候補の言動に表立って異を唱える動きは見られない。もしそうした場合、「トランプ返り咲き」の暁には、幾多の経済・貿易政策や行政措置などを通じ、手痛いしっぺ返しを受ける恐れがあるからだ。

 現にトランプ前政権当時、大企業に対し、大統領自身が「賃金の安い諸外国に工場移転させ米国内から仕事を奪う企業には報復措置をとる」としてこれらの企業の輸入製品には35%の追加関税を課す方針をちらつかせたことがあったが、その際にも、関連企業の多くが「大統領のさらなる怒りを買う」としてあからさまな反対の動きは見せなかった。

 今回の場合も、「ABC NEWS」などの報道によると、多くの大企業経営者たちは、万が一トランプ氏がホワイトハウス入りした場合、報復の標的にされることを恐れ、ひたすら身をかがめたままだという。

 ただ、財界の大勢が、トランプ返り咲きを冷ややかに見ていることには変わりない。そしてもし、バイデン氏との選挙戦最終段階で、トランプ候補が4件もの刑事訴追案件の公判などを通じ、劣勢が明確になった場合、CEOたちが〝バンカー〟(塹壕)から首を出し、トランプ攻撃に出る可能性さえ秘めている。

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