2024年12月21日(土)

勝負の分かれ目

2024年2月26日

パリで見せた「新しい戦い方」

 海外合宿で世界の強豪と乱取りで組み合うなどし、ようやく光明が見えたのがGSパリ大会だった。実際、決勝までの全6試合で一度も延長に突入することなく、勝ち上がった。試合内容もGSパリ大会後の強化委で評価を得ており、日刊スポーツの報道によれば、鈴木桂治監督は会見で「新しい戦い方をしている印象」などと語っている

 当初はGSパリ大会後にも、GSタシケント大会とさらには4月の全日本選抜体重別選手権まで選考対象とみられたが、GSパリ大会で新井が3回戦で敗れたことで、一気に「実力差」が明確となり、異論が出ることなく大逆転での代表内定をつかみ取ったのだった。

 思い返せば、東京五輪までの道のりも決して順風満帆ではなかった。18年には稽古中に痛めた左膝半月板を手術し、翌19年12月には右膝の半月板を損傷し、内視鏡手術を受けた。コロナ過で20年夏開催予定だった東京五輪は1年延期となったが、「僕にはプラス」と万全の状態で迎えるための猶予期間と前向きにとらえた。それでも、五輪本番は、試合前日に両膝に痛み止めの注射を打って臨んだ。

五輪2連覇へ、いばらの道をどう突き進むか

 米国人の父と日本人の母との間に生まれた。野性味あふれる見た目とは対照的に、柔道は緻密そのものだ。その原点は東海大学に入学したときにある。

 名将・上水研一朗監督から「雑な柔道では勝てない」と指摘された。組み手の攻防など地道な鍛錬にひたむきな努力を重ね、勝てる柔道を追い求めた。

 2大会連続五輪への道のりは決して平坦ではなかったが、連覇までのプロセスはさらに困難になるだろう。男子100キロ級の世界の勢力図は東京五輪から様変わりし、ウルフは現在の上位選手との対戦経験が少なく、ここからの対策が重要になる。

 ただ、追い込まれた場面での意地と底力こそが、ウルフの真骨頂でもある。井上康生でも成し遂げられなかった100キロ級の五輪連覇。遠回りしたようにみえるパリで、もう一度大輪の花を咲かせる姿が見てみたい。

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