中国メディアは何を報じているか

2013年11月7日

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佐々木智弘 (ささき・のりひろ)

防衛大学校人文社会科学群国際関係学科准教授

1994年慶應義塾大学大学院前期博士課程修了。日本貿易振興機構アジア経済研究所東アジア研究グループ長を経て、2014年2月から現職。共著に『習近平政権の中国』(アジア経済研究所)、『現代中国政治外交の原点』(慶應義塾大学出版会)。

 (4)は、この事件を「テロ」と断定したことに対する海外メディアの反応を批判するものである。

 こうした最小限の報道は、この事件の背景について一切触れず、「テロ」であるとだけ断定することで、断固たる措置への障害を最小限にしたいという党中央の意向を反映してのことであろう。そのことは、海外メディアが伝えるような実行者の個人的な利害が原因であることや外交部が10月31日にこの事件と「東トルキスタン・イスラム運動」(ウイグル族の独立運動組織で、国連でテロ組織認定されている=筆者注)との関連に言及したことなどを『人民日報』が報じていないことにも表れている(後者については11月1日付『人民日報海外版』では報じられている)。具体的な背景が出てくると、共産党のこれまでの民族政策の失政への追及に問題が及ぶことは必至である。そのため、党中央はこの事件を絶対に「テロ」の一言で片付けなければならない。

習近平自身が語る
少数民族地域への支援の成果

 しかし、『人民日報』が、直接的ではないが、共産党のこれまでの民族政策を正当化する記事を掲載している点にも注目しなければならない。

 11月2日付には、「天津市が主力産業を発展させ、新疆を支援する」と題する天津市による新疆ウイグル自治区和田地区の東部3県の支援の成果を宣伝する記事が掲載されている。

 また11月6日付には、習近平が11月3~5日に湖南省を視察した記事が掲載されている。習はこの間に湘西土家族苗トゥチャ族ミャオ族自治州の農村を訪れ、少数民族と交流した。その様子を次のように伝えている。

カゴを見ても、道いっぱいにも果物が並んでおり、習近平は村民に果物産業の発展がますますすばらしく、生活がますますすばらしいことを祝った。

全面的小康社会(まずまずの生活水準の社会=筆者注)の構築完成の難点は、農村、特に貧困地域にある。湘西は国家貧困扶助開発重点地域であり、党委員会と政府はさらにこの点の工作を重視しなければならない。

ミャオ族の貧困村民の施斉文のところを訪れ、穀倉、寝床、台所、ブタ小屋を見て、一家が自信を深め、党と政府の関心の下で勤労と智恵ですばらしい生活を作り上げるよう励ました。

民族地域の発展を速める、その核心は民族地域の全面的小康社会の構築完成のスピードを速めることである。

 当局はこの事件を「テロ」で片付けたい一方で、少数民族が経済発展の後れや貧困に不満を持っていると考えている。この事件の背景にこうした不満があるのかもしれない。共産党はこの事件を「テロ」で片付けることに無理があることを分かっているのだろう。

 そのため、少数民族地域に対する発展地域による支援の成功を宣伝する記事、習自身が少数民族地域を視察し、貧困扶助政策の成果を評価し、今後さらに政策を執行するよう指示する記事を掲載することで、共産党はこれまでの民族政策の正当性をアピールしようとしている。


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