2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2024年3月12日

 地裁、控訴審で弁護側が敗訴した後、最高裁審理では8人の判事の間で、大統領の執務にかかわる権限に関し、法の適用を受けない「特権の範囲」をめぐり激論が交わされた。とくに特別検察官が提出を求めた電話記録内容が「外交、国家安全保障に関わる国家秘密に関係するかどうか」が最大の争点となった。

 最高裁は最終的に、「基本的大統領特権」の存在そのものについては認める一方で、「同事件関連の電話記録は国家秘密の対象外」との判断を示し、ホワイトハウスに関連記録の提出を命じた。

 この結果、結局、最終判断の5日後にニクソン大統領が辞任に追い込まれただけでなく、検察側は最高裁判断を受け大統領と事件関係者とのやり取りを裏付ける重要証拠物件を入手、大事件に発展して行った。

過去のケースとは異なるトランプの裁判

 1997年には、クリントン大統領がアーカンソー州知事時代の91年当時、同州政府職員だったポーラ・ジョーンズさんにホテルで性行為を迫ったとして訴えられた事件の民事訴訟が全米で大きな話題となった。

 同事件では、第一審で原告側が9万ドルの慰謝料支払いを求めたのに対し、クリントン被告が「大統領特権」をタテに反論、判事も「在任中の大統領は告発されない」との理由で訴訟案件自体を大統領退任後まで延期するよう命じた。

 原告側は直ちに控訴、ここでは一転して「大統領は政府官吏らと同様に社会のすべての構成員に適用されるのと同一の法に処せられる」として〝暫定的免責〟が否定されたため、被告弁護団が最高裁に上告した。

 最高裁は①三権分立の下では連邦裁が大統領に対する「すべて個人的」民事訴訟を大統領任期終了後にまで延期することは命じられていない、②最高裁は下級審における免責主張の妥当性について判断する立場にない――などとして地裁に差し戻した。

 この結果、クリントン氏は最終的に9万ドルの慰謝料支払いを命じられた。

 しかし、今回最高裁審理の対象となっている大統領選結果転覆工作事件は、これら過去のケースとは異なり、米民主主義体制の根幹を揺るがすだけでなく、裁定次第では、大統領経験者が史上初めて刑罰の対象に処されるきわめて重大な内容を含んでいるだけに、最高裁としても従来以上の慎重な考察を迫られていることは間違いない。

 このため、とりあえず最高裁は去る2月28日、「大統領免責特権」の当否判断を先延ばしし、「4月22日から審理を開始する」と発表するにとどめた。

 通常、上告案件を審理するかどうかは判事9人中4人の同意で決定できることになっているが、今回の場合、去る2月15日にトランプ弁護団が最高裁上告以来、申請案件の「審理開始」を決断するまでに2週間近くも要したこと自体、判事の間でかなりの見解の相違があったことを示している。

 また、最高裁は「審理開始」時期の発表と同時に、「審理内容」については「被告である前大統領が在任中の公務を含む行為に関わる刑事訴追の免責を認められるかどうか、認められるとすればどの程度許されるかを決定する」と付記している。


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