2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2024年3月12日

最高裁判事が共和党保守派多数でもトランプに有利でない事情

 ただ、実際に口頭弁論を含む審理開始となった場合でも、その結論を出すのは早くて6月になる見通しだ。

 最高裁判事は現在、共和党系保守派6人(うち3人はトランプ大統領在任中の任命)、民主党系3人で構成されており、決断を下すのにトランプ氏側にとって極めて有利な状況にあるはずだが、最初から「結論ありき」のような印象をあたえる判断に容易に踏み切れない以下のようないくつかの厄介な事情がある:

1. 控訴審判断の重み

 去る2月6日の控訴審判断は、トランプ弁護側の「免責特権」の論拠のすべてについて、一つひとつ過去の判例に言及しつつ明快に論破した上、結論に至る経緯を57ページもの長文を割き克明に丁寧に説明したものだった。このため、英BBC放送の解説によると、ワシントンの法律専門家の間では「圧倒的に説得力あるものであり、最高裁としても、トランプ氏側の上訴自体を受理しない可能性もある」との事前の見方も広まったほどだった。

 さらに今回の判断は、審理にあたった3人の判事の中にブッシュ共和党政権当時に任命された判事1人も含まれ党派を超えた全員一致によるものだったことから、今後審理にあたる最高裁の共和党系判事にとってもプレシャーとなる可能性がある。

2. 過去の最高裁判断

 ニクソン大統領が特別検察官のターゲットとなったウォーターゲート事件審理では、個人的理由で欠席した判事1人を除く8人の判事全員の判断として、「捜査協力を拒否することは『大統領特権』として認められず、司法手続き遂行が優先されるべきである」と結論づけられた。ここで「大統領はいかなる状況下であれ、絶対的免責特権を持つ」と主張し続けてきたニクソン弁護団の主張は却下された。

 クリントン大統領の民事訴訟事件をめぐっても、最高裁は「大統領が出廷を余儀なくされる法廷における訴訟審理継続は三権分立の下における大統領執務の障害となる」との弁護側の主張を退け、「大統領の(性的暴行未遂という)個人的行為自体が公務以外の非公式的なものであり、大統領は法の上に立つことはできず、免責の対象外」との判断を示した。

 このほか過去200年以上にわたる多くの最高裁判例においても、「すべての大統領が司法のプロセスに従うべきことを義務付けている」として、大統領免責特権に否定的見解を示してきた経緯がある。

3. 法的根拠なき「大統領免責特権」賦与

 冒頭で指摘した通り、民事、刑事訴訟問わず、免責特権の存在を認める規定は憲法上あるいは連邦法のどこにも存在していない。あくまで「三権分立」体制下で、行政の長である大統領の職務遂行が連邦議会、司法から独立したものであることが憲法で保障されているにすぎない。

 大統領に「特権」が賦与されていることは事実である。しかし、その中に刑事訴追を免れる「免責」が含まれるかどうかは、これまで司法判断に委ねられてきた。

 そして過去の最高裁判例では、「絶対的免責特権」賦与についていずれも否定的見解が示されてきた。

 このため、現在の最高裁においても、たとえトランプ氏が直接任命した判事3人を含む共和党系判事が圧倒的多数を占めているとはいえ、「全員一致」の結論が理想とされる審理においては、拙速は避けざるを得ない状況にある。


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