ドナルド・トランプ氏が起訴された2020年大統領選挙結果の転覆工作容疑をめぐり、連邦最高裁が米裁判史上かつてない難題を突き付けられ、苦悶している。すなわち、大統領は在任中、いかなる犯罪にかかわったとしても刑事訴追を免れる特権を有するかどうかをめぐるものだ。その最終判断の結果次第では、同氏を待ち受ける今後の公判と大統領選に重大な影響を及ぼすことになる。
大統領の法の適応外かは最高裁の判断
ワシントンの連邦大陪審は昨年8月1日、20年大統領選に関連し、①国家に対する詐取共謀、②選挙手続き妨害共謀など「4つの罪状」でトランプ氏を正式起訴した。
トランプ側弁護団はこれを受け、「大統領は在任中の行動については絶対的に免責される」として異議を申し立てたが、ワシントンDC控訴審は去る2月6日、トランプ氏が退任し「一市民」となったことを理由に「大統領免責」の訴えを却下した。
このため、同弁護団は同月12日、これを不服として最高裁に上訴、その最終判断待ちとなっている。
もともと「大統領免責」については、合衆国憲法のどこにも直接言及した個所はない。
唯一、大統領の「特権」として触れているのは、第2章第2条第3項であり、そこには「大統領は上院休会中であっても空席となった閣僚補充権限を保有する」とだけ明記されているにすぎない。
しかし、この特権以外にも、大統領のどのような具体的行為が法の適用外の特権として認められるかについては、建国以来今日に至るまで、そのつど最高裁の判断に任されてきた経緯がある。
近年の最高裁判例では、まず「ウォーターゲート事件」をめぐる1974年7月の明確な判断がある。
この裁判では、共和党犯行グループによる民主党本部侵入事件を捜査中だった特別検察官が当時、ホワイトハウス側に大統領執務室の電話記録提出を求めたのに対し、ニクソン大統領弁護士が、「大統領は在任中、フランスのルイ14世並みに強大な権限を付与されており、執務を支える政府高官たちとのいかなる情報、意見のやりとりも秘匿する絶対的権限を有する」として拒否したことから、連邦地裁、控訴審、最高裁で争われた。