食べ物による窒息事故は、死亡に至らなくても重篤な後遺症を残すことがある。20年以上前だが、イクラをのどに詰まらせた5カ月の男児が全身チアノーゼで一時心肺停止となった窒息事故があった。男児は命は助かったものの、低酸素性脳症による重度の後遺症が出た。
小児科医の報告によると、5カ月の男児に保護者はミルクと果汁しか与えていなかったのだが、台所のテーブルの上に置いてあったイクラを3歳の姉が男児に与えてしまったようだ。姉はふだんから弟の世話をやきたがっていたといい、親が目を離したすきに弟に食べさせたのかもしれない。悲しい事故を起こさないために、乳幼児がいる家庭では幼児が簡単に手に取れない場所に食べ物を隠す工夫も必要だ。
社会問題となったこんにゃく入りゼリー
窒息事故といえば、消費者庁発足のきっかけとなったこんにゃく入りゼリーを忘れてはいけない。カロリーがほとんどないこんにゃく入りゼリーはダイエット食品として人気だが、07年3月と4月に7歳男児が相次いで死亡する事故があった。5月に国民生活センターが「子供や高齢者に食べさせるのを控えるべきだ」と注意を呼び掛けたものの、当時は消費者事故に対する所管官庁がなかったことで、こんにゃく入りゼリーによる窒息事故死は「すきま事案」として対応が後手に回り、その後も事故が続いた。
窒息事故が起きるたびにマスコミは大きく報道、消費者団体から「こんにゃく入りゼリーの販売や流通を止めてほしい」と訴える声が政府に寄せられた。ゼリーの形状や硬さを法律で規制するべきか検討した自民党の調査会では、パッケージに「子供が食べたら死ぬと分かる注意を書くべき」との発言も出るほどだった。
ただ、当時も今も食べ物による窒息死の原因トップは餅。09年に行われた食品安全委員会のリスク評価でこんにゃく入りゼリーは「餅よりは頻度が低いが、飴と同程度にのどに詰まらせる事故が起こりやすい」との結果だった。つまり、こんにゃく入りゼリーのリスクは飴と変わらなかったのだ。
食品安全委員会は「こんにゃく入りゼリーによる窒息事故はニュースなどに大きく取り上げられたが、実際にはさまざまな食品で事故が起こっている」とし、食品による窒息事故のリスクを低減するためには「窒息しにくい食べ方を理解することが大事」と結論づけた。
同委員会が提言する窒息しにくい食べ方とは、①食品の物性や安全な食べ方を知る、②一口量を多くせず、食物を口の前の方に摂り込む、③よく噛み、唾液と混ぜる、④食べることに集中する――の4点。拍子抜けするほど当たり前のことだが、毎日の食事の中でこれらのことはおろそかになりがちだ。
とくに③の「よく嚙み」は、急いでいるときなどついおざなりになってしまう。取材時に同委員会の広報担当者は「あらゆる食べ物で事故は起こっており、どんな食べ物にもリスクがあることを知ってほしい。子供にはゆっくりよく嚙んで食べる、ふざけないなど食事の際の基本をしっかり教えてほしい」と話していた。